美術館・博物館は完全に“沼”!? 〜好きを見つける。好きを伝える。〜【江戸東京博物館編】

江戸東京博物館

3月1日(月)からスタートする「Welcome Youthキャンペーン」は、都立の美術館・博物館6館をオンラインコンテンツや春の展覧会・イベントで深~く知ろうというもの。自らもどっぷりと沼にハマった学芸員・司書さんたちにちょっぴりマニアックな楽しみ方をお聞きして、新しい沼へと誘っていただきました。

東京都江戸東京博物館
学芸員 眞下祥幸さん


テーマパーク感覚で
タイムスリップする江戸の町!

江戸東京博物館は、どんな博物館ですか?

眞下 徳川家康が江戸に来た約400年前から、前回の東京オリンピックまでの、江戸時代から近現代にかけての資料を集め、保管、展示しています。館内に入ってすぐに見える日本橋は江戸時代と同じ大きさで北側半分を再現し、橋を渡ると東京から江戸時代へタイムスリップするイメージになっています。デートスポットになる美術館に比べて、博物館は暗くて全体的に茶色く、古めかしいイメージですね(笑)

博物館の役割って、展覧会も大切ですが、実は現代まで残ってきた物をいかに未来に残し続けることができるか、が大切なんです。だから展示室に飾ってある資料は2000点ほどですが、収蔵庫にはその100倍、約36万点の資料が眠っています。

学芸員さんってどんなお仕事をされているんですか?

眞下 いろんな展示をするための準備や、資料の収集が仕事なので、決して派手ではないですが、展覧会に向けて、テーマに合わせてどういった資料を並べるかなどを考えるディレクター的な役割をしています。展示品の交換も学芸員の仕事。照明などで色褪せしやすい着物や絵などの紙類は、実は1ヶ月ごとの休館日に季節にあった資料に展示替えしているんです。

お仕事の面白さはどこですか?

眞下 例えばひとつの展覧会をするために、大きな特別展だと3年〜5年前から、小さなものでも1年ほど前から計画していきます。こういうテーマで、こういうお話を作りたいということを決め、それに沿って展示する資料を集める。江戸博の中にない資料であれば、他館から借りてきます。同じテーマで開催したとしても、同じ資料が同じ展覧会に集まることは絶対にないので、博物館や美術館の展覧会のお仕事は、“一期一会”だなと思っています。

館内で一番お気に入りの展示は?

眞下 自分が手掛けた玉川上水のコーナーかな。江戸博の中ではちょっと不思議な空間なんです。江戸時代の人たちがどんな水を飲んでいたかということは、意外とみんな知らないよね? 実は江戸時代も江戸の町中には「木桶(もくひ)」と言われる現代でいう水道管が地中に埋められていて、長屋のすみずみまで配水していたんです。江戸には多くの井戸がありましたが、湧水ではなく、多摩川や神田川の水を引いた水道だったのです。

江戸東京博物館江戸東京博物館

これを知っておくともっと面白くなる、という観覧ポイントがあれば教えてください!

眞下 どれも当たり前のように並んでいるけど、実は何百年も前の物が今に残っているというのは、本当に偶然なんです。だって今みんなが書き留めているようなことが、100年後、200年後まで残っていると思う? でも当時もみんなと同じように「今日はこんな訪問者があって、誰々に回覧板を回しました」みたいに日常を書き残していた人がいるんです。

当時の生活はこうした奇跡的に残っている記録からしかたどるしかありません。昔の筆文字は現代の我々から見ると読みづらいですが、書いてあることは今とそんなに変わらないんですよ(笑)

眞下祥幸

ズバリ、眞下さんは何マニア?

「マンガ」マニア!

眞下 自宅には小学2年生くらいから集めたマンガが3000冊ほどあります。1冊も捨てたことはありません!(笑) 本棚が40本ほどあって、そのうちの10本くらいはマンガです。所蔵本はすべてリストにしていて、タイトル・作者・出版社・連載中か既刊かなどもわかるようにしています。マンガ以外にも文庫本や図録などもリストにしています。どんなものでも活字を読むことで勉強になります。活字中毒かといえば活字中毒でしょうね(笑)

眞下祥幸

歴史の沼の入り口はどこにありましたか?

眞下 高校生の時に日本史で近世・江戸時代を習って、テストの結果が良かったんです(笑)。それまでは本を読む方が好きで国文学科を目指していたんですが、歴史の方が面白くなって、歴史学科へ進みました。ただ、大学に入ると、暗記する学問と思っていた歴史が、 “わからないことを調べる”学問に変わったことに驚きました。まだ誰も知らないことを明らかにするために、関連資料を調べて研究するんです。マニアはすでにある情報を調べて取り込むでしょ? 研究者はその先。そこが研究者とマニアの違いかなと思います。

Welcome Youthキャンペーン、おすすめの回り方は?

眞下 おじさんとしては、1択で「江戸博に来て」と言いたいところですが(笑)、面白い視点で言うなら、美術館の解説文は見る人の感性を大切にするため量は少なめですが、博物館では背景を知らせるため、これでもか! というほど書いてあります。資料より大きいプレートもあるくらい。でもご安心、江戸博の解説はみんなが高校の教科書で習っているレベルの用語で書いているので、わかりやすいと思います。他にも資料の並べ方や部屋の明るさなども見てください。

江戸東京博物館



    江戸東京博物館をより堪能するための5つのポイント!

  1. 模型はもっと目を凝らして見た方がいい!

    江戸東京博物館は、模型をふんだんに使っていることも大きな特徴。そして想像していた以上に正確に作られている!

    江戸東京博物館
    館内にダイナミックに架かる日本橋はもちろん、橋を渡った先に左右に並べて設置された庶民の家(町人地)と大名屋敷の模型。こちらはどちらも30分の1の縮尺に合わせてあるため、サイズの比較が一目瞭然。(大名屋敷1つの敷地に対して庶民の家は200軒くらい!)

    江戸東京博物館

    長屋の模型を見ると、当時の生活が見えてきます。この1棟の長屋には5組の家族が暮らしていて、一部屋は4畳半か6畳。明らかに、狭い! その中に一家族の家財道具の一切合切を置いていました。押し入れ(クローゼット)もありません。あまり物がなかったんですね。それくらい当時の暮らしはシンプルだったことがわかります。

    江戸東京博物館江戸東京博物館
    トイレは共同!(しかも上半分見えてる!)

    右隣にはゴミ箱も。(当時は魚の骨とかが捨てられたようで、使えるものは再利用しました)

    江戸東京博物館
    こちらはお寿司の屋台。お寿司はもともと江戸のファストフードだったそうです。保存がきかないので酢漬けや醤油漬けにして、ごはんの上に乗せる握り寿司が始まったのが江戸時代後期。

    でもよく見てください。

    江戸東京博物館

    実はこれ、今よりサイズが大きいです。このサイズ感もリアルに再現しています。2つか3つ食べると結構お腹がいっぱいになっちゃうくらい。

    だから小腹が空いた時にサッと寄って、おやつ的な感覚で食べていたそうです。

    江戸東京博物館

  2. 博物館の物は“解説”があってこそ、生きてくる!

    江戸東京博物館

    例えばここに、大名の奥様が乗っていた籠が飾ってあります。こちらは中まで模様が描かれています。(殿様が乗っていた籠は味気ないそうです)。長い柄を4人ほどで担ぎ、1時間で6キロ(今はだいたい1時間4キロ歩くと言われています)、大名などは参勤交代では1日40キロほど移動していたそうです。

    江戸東京博物館

    テレビでよく見る「下にぃ〜下にぃ〜」と殿様行列がゆっくり通る場面が出てくるけど、あれは宿場などに入る時だけ。あとはすごいスピードだから、殿様もよっぽど体力に自信がないと旅行もできないくらい。車酔い(籠酔い!?)もひどいそうです。

    こうした、物の背景にあるストーリーを伝えるために、博物館には解説などのパネルがあります。

    解説やパネルを作るのも学芸員さんの仕事です。

    これは「江戸町人の人生」というパネル。記録などを参考にして制作します
    こうしたパネルからも、当時の人たちのことがわかります。

    当時は子供の時期によく命を落としてしまったようで、現代では形式になっている子供の祝の行事も、100日目や1年などの節目に「よく生きてくれた」という気持ちを込めてお祝いしていたそうです。ただ、子供の時期を過ぎてしまえば意外と長生きで、70歳くらいまで生きる人も多かったようで、「今のようにお菓子も食べないし、粗食だし、よく歩いて健康だしね」と眞下さん。

  3. マニアックポイント(ウォーリーを探せ的な)

    これは現在の三越につながる江戸時代の呉服店「三井越後屋」の模型。当時の生き生きした様子がわかり、普通に面白いのですが、実は2階の暗くなっているところを光で照らしてみると、奥にお嬢様が座っているのが見えるんです!!!

    江戸東京博物館

    これは完全にマニアックな眞下’S EYEですね。

    江戸東京博物館

    もう一つ。こちらは当時の両国、大川(今の隅田川)に架かる両国橋のふもとに広がる、江戸一番の歓楽街の様子です。でも実はここ、火事が起こった時のための火除け地(避難場所)にされているので、常設の建物は作っちゃいけないと幕府から言われていたそうで…。

    ですので、基本は芝居小屋などは簡易ですぐに解体できるようになっており、屋台などは車輪が付いて移動できるようになっているものもありました。配置された1500体の人形の中にはスリもいるそうです。人形たちは色々な動作をしているので探してみてください(笑)

  4. 足下、階下を想像してみる!

    一通り回り終えた後、思い出して欲しいのが、「展示されているのは2000点。倉庫に眠っているのは36万点」という数字。

    江戸東京博物館

    今歩いてきたのが6階→5階。この広いフロアのちょうど真下、同じ面積の4階に、収蔵庫があり、36万点の資料が眠っているそうです。想像するだけでちょっと「ワッ」と思いますよね。

    「博物館の役割って、展覧会も大切ですが、実はいかに残ってきたものを未来に残し続けることができるか、が大きな役割なんです」と眞下さん。

    徹底した資料管理にも頭が下がります。

  5. 過去〜現代〜未来をつなげてみる

    江戸東京博物館

    例えば移動手段は、江戸時代は歩くか、人が担ぐ駕籠しかなかったものが、近代になると自転車や鉄道、車ができて、交通が発展することで、人々は短時間で長距離移動できるようになりました。当時作られた物がいかに我々の生活を便利にしてきたか、これから先はどうなるのか、今の自分の生活とつなげて考えてみると、歴史がもっと身近に感じられると思います。


    江戸東京博物館は国技館のすぐ隣。最寄りのJR両国駅は、完全にお相撲さん仕様!

    次々とお相撲さんが通って行きました。

    帰りにちゃんこ鍋食べるのも、アリです。

Welcome Youth(ウェルカムユース)キャンペーン都立6館の美術館・博物館を深く知って、深く楽しむ!
東京都庭園美術館
東京都江戸東京博物館
江戸東京たてもの園
東京都写真美術館
東京都現代美術館 (3月19日まで休館中)
東京都美術館

◯公益財団法人東京都歴史文化財団
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(サイトは3月1日よりオープンします)

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