多様化が進むこの時代。様々な文化や背景、障害を持つ人々など、あらゆる人たちと共生していくためになくてはならないのがコミュニケーションです。でも、言語や文化の違いや障害の有無に関わらず、情報や想いを正確に伝えるためにはそうすればいいのでしょうか。日本をはじめ、様々な国にルーツを持つ高校生と聾学校に通う高校生が大須演芸場に集まり、伝えることのプロである落語家の林家つる子さんをゲストにお招きして、「伝える、伝わる」について考えてみました。
落語は日本の伝統話芸。その始まりは岐阜県にある浄音寺の安楽庵策伝というお坊さんだと言われています。お坊さんは人としての生き方を解く説法というお話をしますが、ただ話すだけだと聴いている人が飽きてしまうので、笑い話を織り交ぜたんだそう。策伝和尚にちなんだ策伝大賞という学生大会もあり、つる子さんも大学生の頃に出場されました。この時はまだ女性の落語家さんは少なかったそうですが、現在では約60名ほどの女性落語家さんがプロとして活躍されています。また落語は古典芸能なので、お年寄りのものというイメージがあるかもしれませんが、現代を舞台にした新作落語もあり、古典落語も現代風にアレンジされていて、堅苦しいものではありません。最近はドラマやアニメの影響で若いファンも増えているんです!
そんな日本人ならば老若男女が楽しめる話芸である落語。日本とは違う文化や言語の中で育った人や音が聞こえない人にその面白さは伝わるのでしょうか?つる子さんに「みそ豆」と「反対俥」という2つの古典落語を披露していただきました。
落語の原点はダジャレ。例えば「隣の家に囲いができたんだって」「へえ(塀)。」という短い会話も、ただ前を見て話すのではなく、「上下を切る」という話しているキャラクターによって顔の向きを変えて誰が話しているかをわかりやすくするテクニックを使うことで落語になるのだそう。日本には上座下座の文化があるので、顔がどちらを向いているかで、登場人物の身分や年齢も伝えることもできます。
ダジャレは世界共通!会場中が笑いに包まれました。
「みそ豆」は商家で働く奉公人の定吉と旦那のお話。味噌を作るための豆が煮えたか見てくるように言われた定吉が、鍋の蓋を開けるといいに匂いが漂ってきて、思わずつまみ食い。一口、もう一口と食べているうちに旦那に見つかり、叱られてお使いを言いつけられます。一方、旦那も豆の香りの誘惑に負けて、ついついつまみ食い。しかし、定吉を叱った手前、戻ってきた定吉につまみ食いをしているのを見られてはいけないと、隠れて食べようとするのですが…。
「反対俥」では、急ぎの用があるお客さんが、足の速そうな車に乗ってみると、想像以上に速すぎる!ものすごいスピードで障害物を飛び越えていきます。そして勢い余って辿り着いたのは…?
落語は日本の文化の中で日本人のために作られた話芸ですが、笑いが起きるポイントは出身国や違っても、音が聞こえなくても同じだったのが印象的でした。では次にそんな落語で使われている“伝えるためのテクニック”を体験してみます。
扇子と手ぬぐいを使って表現してみよう!
落語家さんが舞台上で使う道具は扇子と手ぬぐいだけ。この2つを様々なアイテムに見立てることで、よりリアルにお話の内容を想像させるんです。
まず最初に挑戦したのは本を読むシーン。畳んだ手ぬぐいを本に見立てて、ページをめくる仕草をします。この時ポイントになるのが目線の動き。目線を左から右へ動かすと横書き、上から下へ動かすと縦書きだと伝えることができるんです!扇子を筆に見立てることで、ノートに書き込む仕草もできますね。
次は蕎麦を食べるシーン。左手は器を持つときの形にして、右手には箸に見立てた扇子を持ちます。箸で蕎麦を持ち上げ、息を吹きかける。こうすることで熱々の蕎麦の温度を表現できます。そして箸を口元まで持っていき、音を出して勢いよく啜る!食べたあとは一息つくと、その蕎麦がとてもおいしそうに見えるんだそう。
▶︎▶︎【NEXT】“伝えるための工夫”を自分たちでも考えます!