株式会社TENGAヘルスケア
取締役 佐藤雅信
性の悩みや問題がない社会の実現を目指し、TENGAヘルスケアを率いる佐藤雅信さん。2年前に立ち上げた中高生に向けた性教育サイト「セイシル」運営の背景には、ご自身の経験からくる熱い想いがありました!
- ▼ 佐藤さんが心掛けている3つのこと
使用者目線で考える
得意なことに集中する
会社にい過ぎない
企業なのでつい売上げの目線が入ってしまいますが、そちらに偏ってしまうとどうしてもお客さんの気持ちに気付けなくなってしまうので、この点は常に意識するようにしています。
なるべく自分にできることに集中し、苦手なことや向かないことは得意な人に任せるようにしています。立ち上げ当初は自分が社長をしていたのですが、その後社長業を人に任せたのも一歩引いた役割の方が僕に向いているからなんです(笑)
新しい発想はいろんな経験をすることで生まれるものだと思っています。だからあまり会社に長くい過ぎないようにしています。僕はコロナになる前から、家族と暮らす長野の家と東京を行き来しながら、週の半分はリモート生活をしていました。コロナ後は東京の事務所に来るのが月に1度くらい。今はどこでも仕事ができるように、キャンピングカーを買って、モバイルオフィスのようにしています。いつ災害がきても安心です。
まずは、どんな会社か教えてください!
性の悩みや問題がない社会を目指し
商品・サービスを開発
一人ひとりが「性に関する悩みや不安のない状態になること」を目指して、それを解決するような商品やサービスの開発を行なっています。親会社のTENGAが2005年に創業して男性のマスターベーションのグッズからスタートした当初から、医療や福祉の分野にも性に対するアプローチをしていきたいという青写真があり、10年ほど経った頃に社内ベンチャーのプロジェクトとして立ち上げ、その後法人化しました。TENGAは「人々の性生活を豊かにして、人を幸せにする」ことをミッションに掲げていて、その実現のためにもまずは体や心が性的に健康であることが大切だと考えています。
10代に向けた性教育を始められたきっかけは?
性の悩みに関して
頼れる場所がどこにもなかった
中高生の方が性の悩みを持った時に、ネットで探しても不確かな情報にたどり着いてしまったり、匿名掲示板などに聞いても専門家が答えてくれるわけではなく、頼る場所がない状況を変えたいと思ったことが一番の理由です。性教育を行なっている現場から「マスターベーションの方法を教えるための資料を作って欲しい」というリクエストがあったこともきっかけになりました。
不適切なマスターベーションを続けたことにより膣内射精障害を患って30代で病院に行く方が多くいます。その大きな理由が、子どもを作りたくてセックスしても膣内射精ができないことなのですが、その時にはマスターベーションを始めてからすでに20年ほどが経っていて、治すのは本当に大変です。しかし妊活にはそれほど時間もありません。だからこそ10代の方に早い段階で適切な知識を伝えていく必要があるなと感じました。
そこで誕生した10代向け性教育サイト「セイシル」。こだわった点は?
10代が性について友だちと
話すきっかけになって欲しい
2017年に調べた「オナニー国勢調査」で、「マスターベーションについて気軽に相談できる相手はいますか?」という質問に対して、約6割の方が「いない」と回答しました。話す機会がないと、自分が適切でない方法をしていても、それが悪いと気付くことができず、それどころか余計に追求してしまいますよね。
そこでネットで適切な知識を手に入れられるよう、“知ろう、話そう、性のモヤモヤ”をテーマにした「セイシル」を立ち上げました。皆さんから届いた性のお悩みに専門家の方に回答してもらい、できるだけ複数の回答を用意して多様な意見に触れてもらうことで自分でも考えていただきたいと考えました。そして友だちや誰かと話して、解決に向かって欲しいと思っています。
性教育って、教科書では肝心なことに触れてくれないし、堅いか怪しいかのどちらかに偏っていることが多いと思うんです。だからこそ10代が知りたいことは、どんなことも載せるようにしています。これからもっと皆さんに知っていただき、セイシルが10代の方の性のお悩みのよりどころのような存在になることが今の目標です。
10代には性に対してどんな風になってもらいたい?
性の話を普通に友だちと
できる社会が理想
性の悩みを抱えると恋愛に消極的になったり、自尊心や自己肯定感まで下がってしまいます。僕自身も膣内射精障害に悩んできました。仮性包茎がコンプレックスで、包茎手術をして性感帯の一部を切ってしまったことで、快感を失うという取り返しのつかない経験もしました。でもこれは間違った知識による間違ったコンプレックスだったんです。だからこそ皆さんには同じ経験をすることのないよう自分で向き合って対処できる力を身に付けてもらいたい。友だちとも“下ネタ”としてではなく、性の話を普通に話せるようになってもらいたいなと思います。これは10代に限らず、大人に対してもそう思っています。
佐藤さんはどんな高校生でしたか?
自分が面白いと思ったことで
人を笑わせるのが好き
普段は目立たないけど、何かのタイミングで変なことをして、“面白いヤツだな”みたいに思われていたんじゃないかなと思います。小学生の頃から人を笑わせるのが好きで、シリアスな場面でもふざけたくなっちゃうタイプでした(笑)
フォークソング部ではメタルバンドを組んでいて、楽器はベース。前に出て目立つよりは、サブの立ち位置が好きでした。天体観測が好きで、地学部にも入っていたんですが、ここも副部長。運動は得意で、中学生の頃に器械体操をしていたり、高校では校内の陸上競技会の棒高跳びで優勝したりしていましたが、小学生の頃はマンションの11階に住んでいて、外にある配管パイプを伝って地上まで降りるということも平気でやっていました(笑)
高校3年生の時は恋愛にも熱中していましたね。初めて本気で人を好きになって、人の気持ちを考えるようになり、人生観も大きく変わりました。
進路はどのように決めたの?
挫折を繰り返しながら
最後に出会った“天職”
中学生の頃から漠然と警察官僚になりたいと思って法学部に行くために勉強していたんですが、警察組織の腐敗が横行していた頃で、高3の春頃に気持ちが挫かれ、次に英語が好きだったので、国際的に活躍できるような道に進みたいなと思って筑波大学の国際総合学類に入りました。同級生は外務省に進んだり国連やJICAに進んだりする子が多かったですが、僕は、大学1年の最初の試験のタイミングで盲腸になって、テストが受けられなくて単位を落としてしまったので、そこでもう燃え尽きてしまって…(笑)
そのまま心が折れて大学はやる気がなく、いろんな職業を検討しながらも、どれもしっくりこないまま就職活動の時期にヘルニアになってしまいました。歩けなくなるくらい酷くて、手術をして3週間ほどベッドに寝たきりの生活を送る中で、自分が一番情熱を傾けられるものは何だろう? と考えて出てきたのが、“性”でした。僕は性の目覚めが早くて、5歳くらいからマスターベーションらしきことを楽しんでいたので、これなら情熱を持ち続けられるかもしれないと思いました。
退院後、たまたま後輩の女の子が見せてくれた雑誌の「an・an」のセックス特集に発売当初のTENGAが取り上げられているのを見て、「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョンに共感しました。ただのオナニーグッズの会社ではなく、社会を変えていこうとしているんだなと思い、人材募集はしていなかったのですが、ホームページから自分の想いを書いてメールを送りました。
その後アルバイトとして会社に入って最初にした仕事は、オフィスの掃除(笑)。めちゃくちゃ汚くて足の踏み場もないくらいだったので、全部きれいにして、雑用などをしていきながら開発のアシスタントを続け、海外事業にも携わりました。当時はまだ会社も小さくて、社長を含めて4人でやっていたので、朝6時から夜23時頃までとにかく働いていました。社長の一軒家をオフィスにしていて、社長がカレーを作ってくれたりして。アルバイトから今年で17年目。今では友だちからも親からも「天職を見つけたね」と言われています(笑)
佐藤さんが開発を担当した製品
「メンズルーペ」
▲自分の精子が泳ぐ様子を専用アプリとスマホのカメラ機能を使うことで、まるで顕微鏡を覗いたように簡単に観察することができるキット。動画は佐藤さんの精子の様子。自分の体を知るための第一歩としても画期的な商品です!
佐藤さん
高校生へメッセージ
いろいろと悩む年代だと思いますが、悩んだ時は同年代の仲間と話したり、大人の意見を聞いたりしながらいろんな視野を取り入れて選択肢を広げてみてください。セイシルのサイトには僕自身が若い頃に知っておいた方が良かったなと思うことを全部載せているので、ぜひ見て学んで欲しいなと思います。セイシルが高校生の皆さんの性の話をするきっかけになっていくことを願っています。