社長に会いたい|株式会社MAPPA 大塚社長「アニメには無限の可能性がある。“好き”と思う気持ちを大事にして」高校生へメッセージ

株式会社MAPPA
大塚学社長

「呪術廻戦」「進撃の巨人 The Final Season」など今注目を集めるアニメーションを数々手がける制作スタジオ・MAPPA。
9月15日(金)より初のオリジナル劇場アニメ『アリスとテレスのまぼろし工場』が公開中のMAPPAの大塚社長にお話を伺いました!

 

まずはどんな会社か教えてください!

クリエイターの独創性を重視して
常に “新しい” を追求するプロダクション

2011年に設立したアニメーションスタジオです。アニメを作り、お客さんに提供して、作品に紐づく商品やイベントなども届けています。クリエイターの「創りたい」という思いや強力なエネルギーが、作品に個性と強度をもたらすと思っているので、そうしたことを大切にしながら、アニメーションで何ができるかを考えて挑戦を続けています。

 

社長はどんな高校生でしたか?

朝から夜までサッカー部の練習
でもレギュラーにはなれなかった

練習が厳しいサッカー部に入っていて、365日ほぼ休みがない状態でした。朝早くから夜も遅くまで練習していたんだけどレギュラーにはなれなくて。通学中の電車で漫画を読むことが癒しの時間になっていました。たかが、サッカーが上手いか上手くないかという一つの物差しではあるけど、そのコミュニティにおいては自信を失っていましたね。自分は枠に入れない人間なんだと思いながら3年間を過ごしたので、あまりポジティブに物事を考えられなくて。その感覚は大学生になっても引きずっていて、自分の将来もまったく想像することができませんでした。

 

進路はどうやって決めましたか?

自分を肯定するために
一番好きなことで勝負しようと決めた

大学は経営学科だったのですが、アルバイトばかりしていて、まったく勉強せず…。その後就職という時に、もう一度自分を構築するために、本当に好きだと思えることで勝負してみようと思いました。そこで漫画やアニメを選んだのが、この業界に入った理由です。高校時代の経験があったからこそ、自分自身を肯定するにはどうしたらいいかを考えたのかもしれないですね。やっぱり、人生楽しみたいしね。

進路について高校生も悩んでいるので、今くすぶっていてもその先に未来が広がるというお話は、とても勇気をもらえます。

高校3年間を振り返った時に、自分では一生懸命いろんなことをやっていたつもりだったけど、欲しい結果に対して本当に積極的に考えて行動していたかと言えばそこまでできていなかったなと思ったんです。すぐ諦めてたし、すぐ嘘ついてたし。「俺めっちゃ練習してんだけどな」みたいにね(笑)。だからちゃんと向き合ってみようかなと思ったのがその時でした。

結果的に、学生の頃にゲームをしたり漫画を読んだり映画を観たりといったことに、無限に時間を使っていたことが役に立ちました。だから自分は何が好きか、何に興味を持っているか、例えば「ゲームに熱中して徹夜していたその熱量ってどこから来るんだろう」とか。そういったことに気付いて将来に生かしていくことは重要なのかなと思います。

 

アニメ業界にはどんな人が向いていると思われますか?

アニメの立ち位置を把握して
作品づくりに反映していける人

これはどの仕事も同じだと思うのですが、一概に「こういう人が向いています」とは言えないですね。アニメ会社には様々な職種があるので、絵を描けない人もたくさん働いていますよ。僕個人の考えとして、アニメが好きという気持ちはあくまで一つの要素でしかなく、今のアニメの立ち位置を把握して、それを楽しめる人たちは強いだろうなと思います。例えば、「海外で日本のアニメが今どのような価値を持っているか」「若い高校生にアニメはどう見られているのか」といったことを把握して、どんな作品を生み出して届けようかと考えて働ける人ですかね。

エンターテインメントの世界に身を置くって、やっぱり勝負事なんです。人の心をどれだけ掴めるかという勝負。だからアニメが好きだというだけでは、その勝負から脱落していくんですね。好きであれば、なぜ好きなのか、その好きという気持ちを他の人にはどうしたら芽生えさせられるのか。そのためにどういったものを作ればいいんだろう、どんな努力をしたらいいんだろう、という考え方ができるといいのかなと思います。

 

作品を作る時に意識されていることは?

キャラクターの人生を深掘りして
セリフからアクションまですべてを繋ぐ

意識していることはたくさんあるのですが、例えばアクションシーンだとそのキャラクターがなぜそのアクションをするのかを考えています。キャラクターの人生まで深掘りした上で、シーンを作っていくことが大事かなと思っています。

人生と言うと大きな話ですが、アクションもセリフもすべて繋がっていて、「やっぱりこのキャラクターはこういうセリフを言うよね」「こういうところがカッコいいよね」というところからみんなで考えて作っています。「呪術廻戦」や「進撃の巨人The Final Season」のように原作がある場合は、原作を読み込んでキャラを構築していきますし、今最前線だと感じられる人を監督に据えて、その人の演出に沿ったアクションシーンを生み出すことなどを大切にしています。

 

人の心を掴む秘訣はありますか?

時代を追いかけずに
先回りしてチャレンジする

その時代にハマって愛されるものはヒットしますが、時代を追いかけちゃダメなんですよね。過去に売れたアニメと同じような作品を作ろうとしても絶対にヒットしない。大切なのは、やはり「先回りできるかどうか」だと思います。正解はないので、僕たちもたくさん失敗しています。でも大事なのは、そこに果敢に突っ込んでいくこと。成功と失敗を繰り返しながら、次の道筋が見えてくるのかなと思います。

 

新作『アリスとテレスのまぼろし工場』について

MAPPA初のオリジナル劇場アニメ作品
公開に向けてチームで挑戦を続けている

今(取材時は公開の1ヶ月前)は映画の公開に向けて、全てのリテイク作業を終わらそうとみんなで決めて、最後の調整を進めています。作品づくりにゴールはなくて、1本の線だけでも「まだ良い線が描ける」みたいに無限にクオリティを上げていくんです。作画でキャラをもっとカッコよくしたり可愛くしたり、撮影の処理をもっときれいにして画作りの質を上げたり、背景の密度を上げたりライティングを調整したり…いろんな種類のリテイクがあるのですが、作品に説得力が持てるかどうかは、そういった細かい作業の先にあるのかなと思います。

気が遠くなりそうな作業ですね。

でもそれが楽しいんですよ。映画の公開に向けて、勝つか負けるかみたいなチームでの挑戦ですよね。その達成感をみんなで味わうことが、やっぱりこの仕事をやっていく上での醍醐味かなと思っています。

『アリスとテレスのまぼろし工場』
  • 脚本・監督:岡田麿里
  • 声の出演:榎木淳弥、上田麗奈、久野美咲/林遣都、瀬戸康史、他
  • 配給:ワーナー・ブラザース映画、MAPPA

©新見伏製鐵保存会


▼大塚社長が心掛けている3つのこと

  1. 常に中心にいる!

    作品の中心だったり会社の中心にいることを心掛けています。外で見ているだけだと判断が一歩遅れてしまうので、いつでも台風の目の中にいるくらい、物事の中心に身を置くようにしています。やっぱりこのスタジオで一番大事なものは、現場で生まれているからね。

  2. 社長が一番働く!

    長時間働くとか残業するという意味ではなく、周りが見て「大塚さん、よく働いてるなぁ」と思ってもらえるようにしたいとは思っています。いつでも新入社員のような気持ちで働いてます(笑)

  3. ちゃんと寝る!

    社長には、日々判断しなければならないことがたくさんあって、選択を間違えると付いてきてくれた人たちにも大変な思いをさせてしまいます。僕の場合、睡眠不足は判断能力を一番落としてしまうので、十分な睡眠を取って仕事に臨むようにしています。仕事って、学生時代の「その時のテストの点数だけ良ければいい」という考え方で進めるのではなくて、パフォーマンスを下げずに、いかに毎日続けていけるかが大切だからね。

 

大塚社長の朝ごはん&モーニングルーティン

大塚社長

朝は起きて歯を磨いてシャワーを浴びて、ヤクルト1000を飲みます。最近は新しいドリンクにもチャレンジしていますよ。朝ごはんは、食べる時はよく食べるんですが、今は映画の制作が佳境で、ごはんは空いた時間に食べるくらいになってしまっています。本当は食べた方がいいんだとは思うんですけど。



高校生へメッセージ

アニメーションを仕事にすることは、無限の可能性があると思っています。世界中の人を楽しませることができますからね。みなさんには、アニメが好きという気持ちを大事にして欲しいし、アニメにまつわる仕事をしたいと思ってもらえると嬉しいです。僕らは、そういう次の世代の方々にもっといい夢を見せられるような仕事をしていかなきゃいけないと思っているので、頑張ります!


取材を終えて

ゆうき(高3) 
運動部のレギュラーになれなかったという大塚社長の学生時代のお話は、僕自身共感することばかりでした。でも学生時代にうまくいかなかった経験も活かして、好きなことを突き詰めて今はMAPPAの社長を務めていらっしゃることが本当にすごいなと思います。僕も好きなことを俯瞰する目を持ちながら今できることから頑張ろうと思います。

あやみ 
大好きなアニメーション会社のMAPPAさん。作品にはさまざまな方々のこだわりが詰まっていることを感じて胸が熱くなりました。「自分が好きな気持ちだけでなく、その好きを他の人にどう広げていくか」とおっしゃっていたのがとても印象的で、これは何を好きな場合でも同じだなと思い、ハッとしました。『アリスとテレスのまぼろし工場』の公開も楽しみです!

大塚 学Manabu Otsuka
アニメ制作会社STUDIO4℃を経て、2011年にMAPPA設立に参加。 2016年から現職。2019年にグループ会社として株式会社コントレールを設立。