日清食品株式会社
安藤徳隆 社長
今月の「社長に会いたい」は、世界初の即席めん「チキンラーメン」を発明したNHK連続テレビ小説「まんぷく」のモデル・安藤百福さんの孫であり、ユニークなCMや商品を次々と生み出す日清食品の安藤徳隆社長にインタビュー!
- ▼ 安藤社長が心掛けている3つのこと
新しいことにチャレンジする
成功体験があると、どうしても同じことを繰り返しがちになりますが、今までと違うやり方を試してみたり、一度成功したものを“ぶっつぶす”ことが大事です。私たちは、“カップヌードルをぶっつぶす”ような商品を生み出すことを、常に目標にしています。
スピード! 即決・即断!
これも日清食品らしいですよね。迷っていても仕方ないから、自分を信じてとにかく決断し、前に突き進んでいく。間違いだと気づいたら、すぐに戻ればいいんです。
つまらない仕事をいかに楽しむか
仕事って、とにかくつまらないものなんです。そんなつまらない仕事をいかに楽しむか、ということが重要だと思っています。
まずは、どんな会社か教えてください!
創業者・安藤百福氏が発明した
チキンラーメンがはじまり
今から62年前の1958年に、私の祖父にあたる安藤百福が世界初の即席めん「チキンラーメン」を発明して創業した会社です。その後、1971年に送り出した世界初のカップめん「カップヌードル」は、今や世界100カ国で販売されています。さらには、「日清のどん兵衛」「日清焼そばU.F.O.」「日清ラ王」など様々な即席めんを販売しているほか、グループ会社ではチルド食品や冷凍食品、菓子、シリアル、乳酸菌飲料などの商品を扱っています。
社長はどんな高校生でしたか?
お弁当は毎日2個持ち
睡眠や食欲に素直な学生
学校生活は授業よりも部活がメインでした(笑)
ラクロスをしていて、U-19大会の日本代表にも選ばれたんですが、とにかく睡眠や食欲に素直な学生でしたね。毎日、お弁当を2つ持って行って、早弁するのが当たり前。生徒会長などからは程遠い感じでしたが、原稿には「優等生だった」と書いておいてください(笑)
創業家に生まれて、いずれ会社を継ぐのであれば、学生時代は全然違う勉強をしておこうと思ったので、大学は経済学部や商学部ではなく、得意ではない理工学部に行ったんです。数学と物理は苦手だったので、入学してからとても苦労しましたが、大学院にも進学して卒業することができました。
徳隆さんが社長になられて取り組まれたことは?
社員の胃袋をつかむために
食堂をNY風に大改革!
最初に取り組んだのは、社員食堂の改革でした。社長が変わったら、社員たちは「新しい社長は大丈夫なのか?」と不安になるはずです。そこで、社員から信頼してもらうために、まず社員の胃袋をつかんでおこうと思い、日本初の株価連動型社員食堂「KABUTERIA (カブテリア)」を作りました。それまでは会議室のような雰囲気だった食堂を、社員がクリエイティブな発想を生み出せるように、NYのガレージのような空間に改装しました。
さらに、当社の株価と連動して、株価が上がればメニューが豪華に、下がると食堂の電気が暗くなり、メニューも質素になるなどの演出もしています(笑)。こうすることで、社員に自分たちの会社の株価を意識してもらうきっかけを作りたかったんです。
他にも、若い世代に親しみを持ってもらおうと、SNSで話題になるようなCMや商品をどんどんと出していきました。たとえば、「カップヌードル」に入っている具材の肉。ネットでは“謎肉”と呼ばれて親しまれていましたが、社内は「謎肉なんていう呼び方はとんでもない!」という雰囲気だったんです。でも、私は多くの人に親しんでもらっている“謎肉”という愛称に乗っかるべきだと考えて、この肉を増量した商品を「謎肉祭」(なぞにくまつり)と名付けて売り出しました。
結果は、発売から3日で品薄になるくらいの大ヒット。とにかく、消費者の方に楽しんでもらうためには、自分たちがもっともっと面白い会社に変わらないといけないと考えていたんです。
社長は自分の強みをどう見つけていかれましたか?
ブランドのことを考え続けていたら
それが力に変わっていた
結果として、経営戦略やマーケティング、ブランドコミュニケーションが自分の強みにはなっていますが、これは学校で勉強して身につけたものではありません。会社で仕事をする中で、「チキンラーメン」や「カップヌードル」などのブランドの魅力を高め、なおかつ、ブランドを基軸とした経営を確立し、展開していくにはどうすればいいか、ずっと考え続けてきたからこそ鍛えられたものです。
私だけでなく、祖父も父 (安藤宏基、現・日清食品ホールディングス 社長・CEO)も同じです。あらゆることに好奇心を持って、「人はどんな風に物を好きになるんだろう?」「どういう時に物を買うんだろう?」ということを考え続けることが大切なんです。
「世界の日清食品」の社長でいるってどんな感覚ですか?
世界の食を担っているという
責任感とプレッシャーは常にある
私はあまりメディアに出ないので、人からどう見られているか、それほど意識はしていないです。でも、人の口に入るものを作っている会社ですから、消費者の方々に安全・安心なものを届けなければならないというプレッシャーは常に感じています。日清食品の商品は、不良品が100万個に1個出るか出ないかという精度で作っています。これは、宇宙ロケット打ち上げの安全基準よりも、さらに高いレベルです。
しかし、「即席めんは体に悪い」というイメージを持っている方はまだまだいますし、だからこそ、消費者の方々に対して誠実に商品を作り続けなきゃいけない。世界の食を担っているという責任感は強烈にあります。ユニークなマーケティングやブランドコミュニケーションは、商品が安全で、安心なものだからこそ成り立つものですから。
創業者の百福さんってどんな方だったの?
もはや執念!? 90歳を超えても
好奇心に溢れていたカリスマ
とにかくクリエイティブな発想が豊かで、96歳で亡くなるまでずっと好奇心に溢れていました。
私は27歳の時から3年間、創業者のカバン持ちをしていたんですが、「今、お前らの年代で流行っているものは何だ?」とよく聞かれました。若い世代が何に興味を持っているのか、どんなテレビを見ているのか、どんなものを好んで食べているのか…そういう時代性を自分の中に取り入れて、新しい発明につなげてやろうと、90歳を超えてもバイタリティと執念を持ち続けていました。
社長の名刺を見せてください!
ブランドごとに30種類以上ある
商品型の“ユニーク”な名刺
変わった形をしているんですが、名刺が面白いと初対面の人とも会話が弾むんですよ。「カップヌードル」の型のものが基本ですが、「チキンラーメン」の開発担当者は「チキンラーメン」の名刺、「どん兵衛」の開発担当者は「どん兵衛」の名刺を使っていて、全部で30種類くらいあります。私が気に入っているのは、創業60周年の時に作った「ひよこちゃん」の型の名刺です。
あと、創業60周年にあたって、会社の歴史を社史としてまとめたんですが、どうせならみんなに欲しがってもらえて、ちゃんと読んでもらえるようなものにしたかったので、「ハードボイルドコミック」という形で制作しました。社史なのに、1ページ目には「この社史はフィクションである」と書いてあって、さらにページをめくる “サムライ”になった創業者が刀を振り回しているような、本当に変な社史なんです(笑)。狙い通り、いろんな会社の方に欲しいと言ってもらって、さらには国際的なデザイン・広告賞で最高賞まで獲ったんです。
徳隆社長の改革を百福さんがご覧になったら何ておっしゃると思いますか?
絶対怒られる(笑)
でも、それが日清らしさでもある
創業者が生きていたら、たぶん怒られるでしょうね(笑)。だから、社史の最初のページには「亡き祖父、百福に捧ぐ」の文字の横に、小さく「呪わないでね」と書き添えています(笑)
でも、創業者も型破りなことをしてきたし、父も破天荒なことをやって創業者によく怒られていた。僕も尖ったことや、攻めたことばっかりやっているから、しょっちゅう父に怒られる…そんなことが代々繰り返されている感じですね。でも、ある意味、それこそが“日清らしさ”なのかなとも思います。
「カップヌードル」と「チキンラーメン」、どっち派?
学生時代から日曜日の寝起きに
U.F.O.を食べるのが好きだった
プライベートで一番食べているのは「日清焼そばU.F.O.」ですね。学生時代は、日曜日にお昼まで寝て、寝起きに「U.F.O.」を食べるのが好きだったんです。それは今も変わらなくて、「チキンラーメン」や「カップヌードル」は試食で食べることが多いから、無性に「U.F.O.」を食べたくなるときがある(笑)。あと、どの商品もそうですが、外で食べるのが圧倒的に美味しい。最近流れている「チキンラーメン」のCMのようにベランダでもいいし、公園でもキャンプ場でもいいから、ぜひ外で食べてみてください。
安藤社長
朝はどちらかというと苦手なタイプなので、シャワーを浴びて目を覚まします。その間はradikoのタイムフリーでラジオの深夜放送を聴いています。深夜のラジオって、結構過激で面白い番組が多いんですよ。そういう番組を朝から聴いて、テンションを上げて出社しています(笑)
高校生へメッセージ
これが一番難しいですね。高校生と一口に言っても、それぞれに違った価値観を持っているはずです。だから、私が何かを押し付けるようなものではないと思うんです。
…では夢を見つけたいけど見つけられずにいる高校生へのメッセージなら、どうですか?
夢を見つけたいと思うなら、手当たり次第、がむしゃらにやるしかないですね。私も迷っている時には、動けそうなところからとにかく動いてみます。実際にやってみて違うなと思えば、また次に行けばいい。動かないことには、何の解決にも繋がらないですから。
日清食品には「日清10則」という社訓があって、どれもユニークな内容のものばかりですが、その1つに「迷ったら突き進め。間違ったらすぐ戻れ。」というものがあります。リスクを恐れて決断しなかったり、迷っていてタイミングを逃してしまうくらいなら、自分を信じて飛び出してみて、間違いに気がついたらすぐに戻ればいい。だから、手近なことでもいいから、何かを始めてみればいいと思います。
私の場合、一度興味を持ったら、とことんまで極めてみるんです。そして、飽きたらパッとやめる(笑)。以前、いきなり仏像を彫りたくなって、1年間くらいずっと仏像を彫っていた時期がありました。そのおかげで、仏像にめちゃくちゃ詳しくなりました。あと、サボテンに興味を持った時は、ひたすらサボテンについて勉強して…そうすることで、今まで自分が知らなかった世界が見えてくる。せっかく興味を持ったものは、深く掘っていって自分のものにしたいですから。
取材からしばらくして、日清食品から発表された完全栄養食のビジョンがこちら!