「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」その16文字から始まった、僕と彼女の沼のような5年間。学生最後の飲み会で出会った彼女に一瞬で恋をした僕は、社会人になりいつしか“こんなはずじゃなかった”という思いに打ちのめされていく。やがて彼女との時間にも終わりが訪れ…。
カツセマサヒコさん原作の『明け方の若者たち』を北村匠海さん&黒島結菜さん共演で今注目を集める現役大学生・松本花奈監督が映画化! 作品についてお話を伺いました。
名曲が散りばめられた
MVのような映像
描写にリアリティがあって、大学生とか大人ってこんな感じなのかなとか思いながら観ていました。監督はこの映画でどんなことを表現しようと思われましたか?
松本 原作を読んだ時に、たとえハッピーエンドにならなかったとしても大抵のことは時間が解決してくれるんじゃないか、という印象が残ったんです。たとえどん底に落ちても、ついた傷が完全に消えることはなかったとしても、少しずつ前を向けるようになる。そんなことを伝えたいと思いました。
彼女のアラーム音のキリンジの『エイリアンズ』がそのまま映画のBGMになっていくところが印象的でした。
マカロニえんぴつやきのこ帝国など、原作にも出てきた楽曲はどのように選曲されたんですか?
松本 原作の中には10曲以上具体的に曲名が出ていたので、中でも印象的な曲だったり、描かれている2010年代ならではの曲を選びました。私は映像を作る上で音楽ってすごく大事だなと思っていて、今回は特に主人公の「僕」があまり口数が多いタイプではなかったので、心情を音楽でもすくってあげられるように考えました。
僕と彼女が夜中の王将で話すシーンが素敵でした。自然な空気感を作るために何か演技の演出はされましたか?
松本 王将シーンは、何度かテストで演じてもらっているうちにおふたりも楽しくなってきてあの空気感が生まれました。アドリブで役者さんに演じてもらったシーンも多くて、例えば引っ越しのシーンでは、カーペットを敷くなどの動きだけを伝えて、あとは結構自由にしてもらったんです。
そうだったんですか! 引っ越しのシーン、すごく自然で楽しそうでした!
松本 撮影が始まって何日か経つと、現場でカメラが回っていないところでも3人がすごく仲が良さそうだったので、そのままの自然な空気感を出したいなと思って。黒島さんとは撮影前から「彼女」をどう作っていくかをお互い悩みながら話しました。「彼女」が嫌な女性に映らないように調整しながらやっていきましたね。
北村さん演じる僕の変化にも胸が苦しくなりました。
松本 北村さんは大学生の時、卒業して会社に入ってから、そして最後で見た目も含めて変化をしていかないといけない役だったのですが、年月が過ぎるにつれて「たしかにこの主人公ちょっと年取ったかも」と思わせる雰囲気を出してくださっていて、私もすごいなと思いました。
ベッドシーンは高校生の私たちには「おっ」みたいな感じだったんですが(笑)、撮影の時って皆さん恥ずかしくなったりしないんですか?
松本 そうですよね(笑)。撮る前にどういう動きをするかは綿密に相談してから始めるので、撮影自体は結構淡々と進んでいきました。でも、そういうシーンはふたりの関係性が出来上がった上で撮りたいなという気持ちがあったので、できるだけ後半に撮影できるようにしました。
好きなことで自信を持ちたかった
登場人物たちが社会に出て大人になっていく部分の葛藤などは、私たちにはまだ想像の域でしかなくて。監督は高校生の頃、“大人になる”ということをどのように考えておられましたか?
松本 私も高校生の頃は、大学生から「大学にはチャイムがない」とか「単位が」という話を聞いてもまったく現実味がなかったです。社会人とか会社ということも想像がつかなくて。いざ大学に入ってみると、自己責任で自分で色々考えて行動しないといけないんだなと感じたり、バイトも高校を卒業してからの方が時間的にもたくさんできたりして、お金を稼げるようになるという面での変化もあるなと思いました。
高校時代の松本監督がこの映画をご覧になったらどう思われると思いますか?
松本 自分がボロボロになるまで誰かを好きになる気持ちがわからないと思うかもしれないですね。観る年齢によっても、その時の自分の置かれている状況によっても感じ方や受け取り方は違うと思うので、何年か経ってまた観直してもらえると嬉しいです。
高校生の頃から映画を作られたりしていたとお聞きしたのですが、時間のない中でどのように活動されていたんですか?
松本 高校の時はダンス部で放課後は練習があったので、映画は夏休みなどの長期休みの時に撮っていました。たしかに時間がないなということは常に思っていて、高校3年間は一瞬で終わっちゃったなという感覚はありました。
当時は早く夢に近付きたいという気持ちだったんですか? それとも純粋に何かを作りたいという気持ちだったんですか?
松本 何か作りたいという気持ちと、もうひとつは自分に全然自信がなかったので、自分の好きなことで賞をもらって自信をつけたいなという気持ちがあったんです。映画を観ることはすごく好きだったので、高校生限定の映画祭で賞がもらえたら自信になるかもしれないと思って目標にしていたところがあります。
そうだったんですか! ちなみに高校生の時に取り組んでおいてよかったなと思うことはありますか?
松本 本を読んでおいたことはよかったなと思います。本には、日常では自分が出会わないような人の考えも書いてあるので、これまで自分が想像してこなかったような考えに触れたことで、創造力が広がりました。当時は星新一のショートショートや、貴志祐介の『悪の教典』などを読んでいました。
本を書いてみたいとかは思われなかったんですか…?
松本 それも少し思ったことはあったんですが、私の場合はひとりでする作業というより、みんなで一緒に作っていく方が好きだったんです。
「コレが高校生活を変えました!」
〜監督の高校生活を変えた出会いは?
松本監督
高校1年の冬に全国の映画好きの高校生が集まるKIKIFILMという団体に入って映画を作り始めたのですが、同じ目標に向かって切磋琢磨できる仲間と出会えたことは本当に大きかったなと思います。みんなで話し合いながら作品を作り、1本映画を完成させられた後は、自分にも少し自信が持てるようになりました。(初長編監督作『真夏の夢』をゆうばり国際ファンタスティック映画祭に出品)
- R15+
- 原作:カツセマサヒコ「明け方の若者たち」(幻冬舎文庫)
- 監督:松本花奈
- 出演:北村匠海、黒島結菜、井上祐貴、佐津川愛美、山中崇、高橋ひとみ/濱田マリ、他
- 配給:パルコ
- ©カツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会
12/31(金)全国公開