社長に会いたい|ジェンコ真木太郎社長「冒険っていうか、時にはハメをはずすことも大事かな」

株式会社ジェンコ 真木太郎社長

「第1回 新潟国際アニメーション映画祭」が3月に開催される。アジア最大の祭典となるこの映画祭で、ジェネラルプロデューサーを務める真木太郎社長にお話を聞いた!

 

どんな会社か教えてください!

26年前に設立した
アニメや映画のプロデュース会社

ジェンコはアニメや映画など、映像のプロデュース会社です。きっと皆さん、アニメと言うとアニメーターが制作しているスタジオをイメージしますよね。僕たちはそういった制作会社と組んでビジネス全体を統括しています。プロデューサーと言ってもいろんな立場があって、制作会社のプロデューサーであれば良い作品を作ることが大きな役割だし、僕たちプロデュース会社のプロデューサーは、作ったものをひとりでも多くの人に見てもらうために動き、制作にかかるお金を1円でも多く稼ぐという役割があります。プロデュースを専門とする会社は、ジェンコを立ち上げた当初も今も、日本ではとても珍しい存在です。


 

新潟国際アニメーション映画祭にはどんな思いがありますか?

アニメ制作に携わるクリエイターの
評価や価値を上げたい

アニメを作るってすごく大変なんです。しかもこれほどクリエイティブな人たちが世界にも通用する面白いものを作っているのに、ギャラが安かったり、労働環境が厳しかったりして、世間的な評価も低いのが今の現状です。ピクサーのスタッフなんて、ほぼ全員日本のアニメが好きで、日本のアニメから技術を覚えたりしてきているのにね。アメリカのハリウッドであれば作品が当たれば収益を山分けする仕組みがきちんとできているんだけど、日本はアニメの資本の仕組みにも問題があって、作品が当たっても一部だけが儲かる構造がいまだに続いていたりします。僕はずっとそこに疑問があって、この映画祭を通じて日本のアニメの評価や価値が上がり、そういったことを皆が考えるきっかけになるといいなと思っています。

なぜ新潟が開催地となったんですか?

新潟って漫画家やアニメ・クリエイターの出身も多くて、これまでもアニメや漫画のイベントなどに対して力を入れてきた都市なんです。アニメの専門学校もあるし、アニメーションのスタジオもあります。今はデジタルの時代だから、地方にもたくさんスタジオができているんです。それに江戸時代、世界港を持つ新潟は、実は江戸より大きな商業都市だったらしくて。この映画祭では、人材育成もひとつの大きなミッションだと感じています。

 

学生ならではの映画祭の楽しみ方は?

クリエイターと観客が
直接コミュニケーションが取れる機会

今回の映画祭は、クリエイターと観客が直接コミュニケーションできる機会が多く、“作品がもっと好きになる”場になるかなと思います。「このシーンはこんな風に作った」という監督の話を聞くだけでも作品の見え方は変わりますよね。東京で開催する映画祭ではなかなかできないですが、新潟は都市の規模も小さいため、アニメが好きなクリエイターと観客がより近い距離でコミュニケーションを楽しめると思います。高校生だとまだ将来どんな仕事に就くかに悩んでいると思うので、新潟映画祭で監督の話を聞いて感動して、アニメの世界に入りましたという子が出てきてくれたら素敵だなと思うし、人生における強烈な出会いが生まれると嬉しいなと思います。刺激は求めてもなかなか得られないものだから、機会は大事だよ。時には勉強よりも!

▲「第1回 新潟国際アニメーション映画祭」会期:2023年3月17日(金)〜22(水)6日間(毎年開催)

 

社長はどんな高校生でしたか?

今当時は将来は考えず
思い切り友だちと遊んでいた

クラスの中では目立っていたと思います。東京の男子校だったんだけど、制服がなくて、学校の道具は全部ロッカーに置いていて、文庫本と定期だけ持って学校に行ってました。小説は1日1冊くらい読んでいたかな。漫画もよく読んでいました。西武新宿線沿いだったので、時には学校に行かずにそのまま終点の西武園ゆうえんちまで友だちと遊びに行ったり(笑)。時代かもしれないけど、当時は将来のことなんて何も考えずに遊んでばかりいましたね。

 

『この世界の片隅に』のヒットは予想外だったって本当?

苦肉の策で選んだ
クラファンが成功を導いた

『この世界の片隅に』は戦時中の広島の話で、最初はほとんどの人に「当たらない」と言われていたんです。アニメーションって空を飛ぶとかロボットが出てくるとか恋愛要素があるとか楽しそうなファンタジーがほとんどじゃない? ところがあの作品はそういった要素がまったくない。僕も当たらないと思っていたんだけど、どうしても片渕監督を世に出したいという思いがあって、それが自分の使命だと思ったんだよね。だけど、どこに話してもお金が集まらないから、しょうがなく苦肉の策でクラウドファンディングを使ったの。すると3000人以上が賛同してくれて、作品ができる前から「完成したら観に行くよ」と手を挙げてくれた人たちがこれだけ集まったということが、最初は「当たらない」と言っていた業界の人も動かしていったんです。だから圧倒的なファンがいるという熱量は大事だよね。


 

失敗することは怖くないですか?

あまりマイナスを考えずに
気付いたらやり始めてる(笑)

『この世界の片隅に』の場合も、みんなが「失敗する」と言って反対していたわけだから、失敗する可能性は高いわけじゃない? それでもやったというのは、ただ僕がおっちょこちょいな性格だから(笑)。これは面白いんじゃないかと思ったら、大丈夫かなとかマイナスを考えずに気がついたらやり始めているんです。もちろん失敗したこともたくさんあるよ。失敗したことはウィキペディアには書かれてないだけでね。失敗した経験は、なぜ失敗したのかを考えることで次につながるんです。野球のイチローもきっとそうでしょ? だから打席にたくさん立ち続けることが必要です。ただ僕たちが野球と違うのは、練習ができないこと。全部本番だから、一度始めたら最後作品が完成するまでやらなきゃいけないところかな。

プロデューサー業の面白さは何ですか?

傑作ができるんじゃないかと
始まりはいつもワクワクしてる

やっぱりワクワクすること。始まる時はいつもワクワクします。すっげぇ傑作になるんじゃないかな、って。この仕事に向いている人は、ひとつのことだけに詳しい専門家というより、浅くてもいいからいろんなことを広く知っている人かなと僕は思います。だから好奇心を持っていろんな人と話をすることは大事。自分の知らないことは人に聞けばいいんです。


▼真木社長が心掛けていること

  1. チャレンジの数を重ねる!

    学校もそうかもしれないけど、今の日本の社会は減点法と加点法があれば、圧倒的に減点法なんだよね。失敗しちゃいけない。みんな失敗したくないから何もしない傾向にあるんです。僕はそれが嫌いなの。僕はチャレンジからしか良いものって生まれないと思っているし、そのことが企業や国に老化現象を起こしてしまうと思っています。チャレンジするということは、野球で言うと打席に立つということ。イチローだって打率3割いくつで、10本のうち7本は打てないということでしょ。成功だけするということはありえないから、失敗してもいいんです。それより数を積むことが大事だと思っています。

 

真木社長の朝ごはん&モーニングルーティン


真木社長

朝食は、茅乃舎のだしに西京みそと普通のみそを混ぜて作った野菜の味噌汁、納豆、野菜炒めに魚を添えています。僕は1日2食で昼を食べないので、朝食はしっかり、自分で作って食べています。朝は起きたらまずメガネをかけて、煎茶にお塩をひとつまみ入れて飲みます。塩分は体の中の老廃物を出す時に使われるので、起きてすぐは体内の塩分濃度が薄くなっているんです。だから少し塩分をとって体の塩分濃度を正常に戻すと、体が心地よくなります。ミネラルの入った自然の塩がおすすめ。これが僕の健康法です。



高校生へメッセージ

優等生的なことを言うと、映画をいっぱい観ることですね。そして本をいっぱい読む。でももっと、冒険っていうかさ、ハメをはずすことも大事かな。たまには学校をサボっちゃうとか家出しちゃうとか。やっぱり刺激って自分から動かないと向こうからは来ないじゃない。大人になって振り返ると、高校生って一番スペシャルな時間に思うんだよね。一番多感な時期だからね!

<第1回 新潟国際アニメーション映画祭>Niigata International Animation Film Festival

  • 会期:2023年3月17日(金)〜22(水)6日間(毎年開催)
  • 審査委員長:押井守(映画監督)
  • フェスティバル・ディレクター:井上伸一郎(元月刊「Newtype」編集長)
  • プログラム・ディレクター:数士直志(アニメ・ジャーナリスト)
  • 映画祭事務局長:(新潟)ナシモトタオ(映画監督)/(東京)井原敦哉)
  • 企画制作:堀越謙三(ユーロスペース)、真木太郎(ジェンコ))
  • 主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会
真木太郎Taro Maki
1955年生まれ。映像プロデューサー。早稲田大学法学部卒業後、’77年に東北新社へ入社。その後’90年に株式会社パイオニアLDCへ入り、数々のアニメ作品の製作を手がける。’97年、独立してプロデュース専門の会社・株式会社ジェンコを設立。手がけた主な作品に、『機動警察パトレイバー the Movie』、『千年女優』、『東京ゴッドファーザーズ』『この世界の片隅に』、「のだめカンタービレ」、「ソードアート・オンライン」など。