「人生がより面白く、豊かになっていく」元JICA海外協力隊・山口実香さんがガーナで気づいた大切なこと

コロナ禍の今、海外へ行ったり交流を持ったりすることが難しい状況が続いています。でも、そんな時期だからこそ、もっと海外や国際協力にも目を向けたい!そこで看護師としての経験をもち、JICA海外協力隊としてガーナで活動されていた山口実香さんに、海外ボランティアについてお話を聞きました。


山口実香さん
職種:感染症・エイズ対策
派遣期間:2015年6月~2017年6月
配属先:ガーナ ノーザン州サベルグ保健所
主な活動内容:感染症予防、母子保健、栄養改善、精神保健を主な柱として、管轄内の病院や保健センターを巡回。健康状態などのデータを集め、分析等を行った。
派遣が決まったときは嬉しさ半分、不安半分

まずは山口さんが海外ボランティアに興味を持ったきっかけを教えてください。

山口 大学生のときに行ったスタディツアーです。フィリピンで、開発途上国の現状を目の当たりにしました。でも、現地の人たちはそれを悲観せず、明るく希望を語っている。その姿がとても印象的で、彼らがもっといい暮らしができるような、病気で苦しむ人を少しでも減らせるような活動をしたいと思うようになりました。その後、病院で働き3年が経ち、看護師としての知識や経験も増えたころ、その気持ちを看護師長に伝えると、ぜひ挑戦してみたらと背中を押してくれたんです。

海外ボランティアの団体はいくつもありますが、その中で海外協力隊を選んだのはなぜですか?

山口 現地で様々なことを学び、その国と日本を結ぶ架け橋になりたいという私の想いと、2年間という長い期間、現地の人たちと一緒に生活をし、同じ目線に立って考えることをとても大切にする海外協力隊の理念がマッチしていたからです。

ガーナへの派遣が決まったときの心境はいかがでしたか?

山口 嬉しさ半分、不安半分ですね。当時、アフリカではエボラ出血熱が流行っていたこともあって、もしものことがあったら…、と。出発日が近づくほどに不安は高まっていきましたが、いざチケットを手にしたら、これから自分が描いていた夢にチャレンジできるんだとやる気が満ち溢れてきました。

ガーナでの活動を通して気づいた大切なこと

実際、ガーナに到着していかがでしたか?

山口 派遣前に70日間の語学訓練を受け、英語をしっかり学んだのに、現地で聞こえてくる言葉は英語ではなくて…。というのも、ガーナでは80もの言語が生活言語として使われているんです。英語で話してもらっても訛りが強くて聞き取れないし、初日は言葉がわからない辛さと不安で大号泣してしまいました。

ガーナの人に言われて一番心に響いた言葉を教えて下さい。

山口 同僚のイブラヒムの言葉です。現地の職場では分からないことがたくさんあって、私がいることで逆に手間取らせたり、時間がかかってしまったり…。もっと貢献できる、力になれると思っていたのに、申し訳なさでいっぱいでした。なぜこんな私をやさしく受け入れてくれるのかと聞くと、彼は「困っている人がいれば、丁寧に教えるのは当たり前。国や宗教、文化は違うけれど、先祖を辿っていけばみんな兄弟だろ?“あなただから”じゃなくて、みんなを大事にしていくんだ」と言ってくれました。涙が出るほど嬉しかったと同時に、私には無意識にガーナ人と日本人を区別して接していた部分があったと気づかされました。

イケメンだ!今、間接的に私たちの心にも響いています。

山口 本当ですか?イブラヒムにも伝えておきます(笑)。

ガーナでは性教育も行っていたそうですね。

山口 正しい知識を伝えることは、性感染症の予防に繋がります。ガーナの子供たちは積極的に質問してくれるので、とても教え甲斐がありました。ただ、性教育への考え方や現状は日本とは違うので、現地での性教育の現状の聞き取りをしつつ、わかりやすく伝えるよう努力しました。

そんなガーナでの活動の中で、一番嬉しかった事はなんですか?

山口 帰国前、首都引き上げの1週間前に私が派遣されていた地域の治安が不安定になってしまって。海外協力隊は安全第一なので、最後の挨拶もできないまま、すぐに首都に引き上げるようにと連絡がありました。でも、お世話になった人に挨拶もできないまま戻りたくないとJICAに相談していたら、同僚も「ミカの安全は俺達が守るから、予定日まで首都引き上げを待ってほしい」と掛け合ってくれたんです。私も同僚の家で生活するなど安全対策を徹底することを約束して、無事に予定日まで任地にいられることになりました。そのときは、こんなにも仲間として大切に思ってくれているんだと、本当に嬉しかったです。

実際に海外協力隊として活動したことで、考え方や行動などに変化はありましたか?

山口 自分の目で確かめたわけではないのに、無意識のうちに決めつけていることがたくさんあったと気づきました。アフリカは貧しいとか、現地の人は困っているはずだとか。でも、違う考えを持つ人もたくさんいて、様々な価値観を知ることが大事だとわかりました。そんなふうに、自分と違うものの考え方へのアンテナを高くしていると、視野が広がり、人生がより面白く、豊かになっていくのだと思います。

今後は医療の整っていない場所で母子の命を守りたい

日本に戻ってきて改めて感じた日本のいいところ、日本とガーナの文化の相違点はなんですか?

山口 時間通りに電車が来ることと、ゴミがひとつも落ちてない清潔さは日本の良さですね。逆に、ガーナ人は困っている人に声をかける人の良さがあります。日本で赤の他人に声かけることはあまりありませんよね。帰国してからは私も進んで困っている人に声をかけるようになりました。

現在は保健師として働いているとお聞きしました。帰国後の進路はどの様に決められたのでしょうか。

山口 せっかく日本にいては学べなかったことをたくさん学んだので、それを活かしたい。そして、多くの人にガーナの現状を伝えることが、ガーナでお世話になった人への恩返しだと思い、地元の静岡にあるJICA静岡県デスクで国際協力推進員になりました。たくさんの学校で国際協力や異文化理解について話すことができ、とても楽しかったです。ただ、自分は医療者なので、医療の面で社会貢献したいという想いが強くなってきて。ガーナでもお母さんや赤ちゃんと接することが多かったので、その命を守り、寄り添える存在である助産師になろうと大学院の受験を決めました。でも、受験勉強だけで一年間終えるのはもったいなくて。勉強をしつつも母子保健にも関われる仕事を探したところ、ぴったりの保健師という仕事を見つけたんです。

JICAでの活動も含め多くのことに挑戦されていますが、また海外でお仕事をしたいという気持ちはありますか?

山口 あります。助産師として経験を積み、医療の整っていない場所で母子の命を守りたいです。助産師の資格は専門学校に通えば1年で取得できます。でも、大学院を選んだのは将来専門家として、医療の整っていない場所でその経験が活かせるんじゃないかと思ったからです。

グローバルな時代だからこそ、色んな人に支えてもらっているということをしっかり考えて生きてほしい

私たち日本人や先進国の人達に知ってほしいことはありますか。

山口 当たり前のことは決して当たり前ではないということです。先進国と呼ばれる国では飽食で、食べ物や飲み物は手に入りやすい。でも、子供たちが朝早く起きて水を汲んでいたり、少ない食べ物をみんなでわけていたりする地域もある。日本では蛇口をひねるだけで水が出ますが、世界規模で考えるとそんなに簡単に水を得られる人は限られているんだということを意識してほしいです。

世界に目を向けてその現状を知ることが大事なんですね。

山口 自分には関係ないという考え方はあまり好きではないです。日本も戦後の復興は多くの国に支援してもらっています。グローバルな時代だからこそ自分たちだけで生きている訳では無くて色んな人に支えてもらっているということをしっかり考えて生きていかなければいけないと思います。

外国語を勉強している高校生達におすすめの勉強法を教えてください。

山口 今までの質問で一番難しいかもしれない(笑)。私自身も苦手意識があって、話せる人がすごく羨ましいので、今も週に一度英会話に通っています。何のために英語を勉強したいのか、話せるようになったらどのような自分になれるのかというモチベーションを持つことが大切だと思います。例えば私の目標は日本で暮らしている外国人お母さん達の言葉を直接、一つもこぼさずに聞き取れるようになることです。翻訳や通訳してくれるアプリを活用してコミュニケーションをとることもできますが、心まで介してくれる訳ではないですからね。

たしかに具体的な目的があると頑張れますよね。

山口 なかなか勉強が手につかないときは、しなければいけない環境に置いてみるのもありですね。例えば、自治体の国際交流協会が開催している英会話のコースは値段が抑えられているのでおすすめです。お金をかけなくても一緒にモチベーションを保てる仲間をつくって勉強すれば継続することができると思うので、自分にあったやり方で勉強を続けてくださいね。

最後に、これから世界で活躍したいと考えている高校生に向けて、アドバイスをお願いします。

山口 新型コロナウイルスの影響で、海外に行く予定が無くなってしまった方もいると思います。でも、たくさん勉強してから海外に行けば、今行くよりももっと知識を吸収できるはずだとプラスに考えましょう。そして、夢を叶えるために今できることをしてください。モチベーションを保つために、同じ志を持っている人たちと自主勉強会をしてみるのもいいと思います。こんなふうにインタビューに参加されているのも素晴らしいことだと思います。応援しているので、頑張っていきましょう!

現地の人と打ち解けるきっかけになったものは?

カメラです。「一緒に写真を撮ろうよ」と声をかけると、急に距離が近くなるんです。ガーナではカメラを持っている人が少ないので現像したものをプレゼントすると「こんな写真をもらったのは初めてだよ!」と喜んでくれました。

好きなガーナの食べ物は?

バンクーは毎日食べたくなるくらいハマりました。乾燥させたとうもろこしの粉を練って発酵させたもので、ガーナではどこにでも売っている、国民食の一つです。

ガーナでぶつかった壁は?

時間感覚の違いですね。初めは平気で遅れてくる同僚にもやっとしましたが、彼らには彼らの感覚があるので、時間通りに来たらラッキーという感じで待つようにしていました。

海外に行く前にはどんな準備をしていますか?

ガイドブックやいろんな方のブログを見て、できる限り情報収集するようにしています。行き先の国の方が経営されているお店に行くのもおすすめです。直接お話を聞くとイメージが膨らみますよ!

海外に行くときの荷物は多い方ですか?

現地で買えるものはそこで買うので、少ないほうですね。食べ物も現地のものを食べたいし、服も現地の民族衣装などを着たいし…。その方が現地の人が話しかけてくれるきっかけにもなって、距離が縮まるので。

新型コロナウイルス感染症についてはどう思っていますか?

まだ未知の部分が多く、治療薬もないので、恐怖心をいだく人が多いですよね。だからといって、感染者に冷たい視線を向けたり排他的になったりするべきではないと思います。もし自分や大切な人が感染したらと想像して周りに接して欲しいです。

JICA 海外協力隊

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