「今まで発表してきた全ての曲を愛している」伊東歌詞太郎さんの音楽にかける想いと悩める高校生へのメッセージ

歌い手としてだけでなく、ラジオパーソナリティや声優などさまざまな活躍をされている伊東歌詞太郎さん。2月16日に発売されたファン待望のベストアルバム『三千世界』についてお話を伺いました。

珠玉の31曲を収録した
コンプリートベスト

ベストアルバムの発売、おめでとうございます。まずは『三千世界』というタイトルに込められた意味を教えていただけますか?

伊東 1stアルバムが『一意専心』、2ndアルバムが『二律背反』と、ナンバリングになっていたので、本当は3rdアルバムを『三千世界』にしようと思っていたんです。でも、3rdアルバムを出したころは喉を壊してしまっていて、3には進めていないと思い、『二天一流』つまり2.1にしました。今は手術を経て、完全に歌を取り戻し前に進めたから、そして“ありとあらゆるものを包括した世界”という言葉の意味がベストアルバムにマッチしているということもあり、今作に『三千世界』というタイトルをつけました。

これまでたくさんの曲を歌ってこられたなかで、収録曲はどのように選びましたか?

伊東 オリジナル曲もカバー曲も、良いと思ったから世に出してきた作品です。全ての曲を愛しているのに、その中から30曲を選ぶなんてできないですよ!(笑) だから、今作はライブでは定番なのにサブスクリプションで配信されていなかったり、CD化していても入手困難になってしまっている曲を中心に置いて選曲しました。

「チルドレンレコード」は再録バージョンが収録されていますが、なぜこの曲を再録しようと思ったのですか?

伊東 この曲って歌うのがとても難しいんです。でも、毎日全力で音楽を続けてきた今の自分ならば、当時よりもさらに軽やかに歌えるようになっているんじゃないかと思って。それに、この曲がきっかけで、僕を知ってくれたというファンの方も多いというのもありますね。

新曲の「絆傷(キズナキズ)」からは力強く生きていく決意を感じました。

伊東 この曲の原型が出来上がったのは2018年、喉の手術を受けた直後でした。歌詞に出てくる“いつかのビリーヴァー”は音楽界を理想郷だと盲信していた過去の自分自身のことです。音楽業界にいる人は自分と同じようにみんなが音楽を愛していると勘違いをして、悔しい思いをしました。他人を利用するのが上手い人、踏み台にする人は社会に出ると当たり前にいます。正直に生きている人たちは、そんな人たちにつけられた“傷”を多かれ少なかれ持っている。でも、その傷は正直者たちの間では“絆”と言っても差し支えないと思います。僕は争いごとは好きではないですが、生き残るためには牙を向かなければいけないこともある。絶対勝つまでやめないぞという想いを込めた曲になっています。

『高校生の中にも、同じように悔しい思いをしたり、悩んだりしている人もいると思います。

伊東 僕はボーカリストなので、嫌なことがあっても歌に昇華していますが、嫌なことからは離れて別の環境を探すのも良いと思います。学生のころは学校だけが全てになりがちですし、周りの人や常識が邪魔をしてくることもあると思いますが、まずは自分を守ることを一番に考えてください。また、努力をしているのになかなか成果が出ないという人もいると思います。僕も喉の手術をしてから元の様に歌えるようになるまで2年半かかりました。その間は、本当に元に戻れるのか不安でしたが、歌うことが好きなので諦めたくなくて、毎日長時間歌い続けていたら、ある日急にうまく歌えるようになりました。だから、思うように成果がでなくても挫折しないでください。努力を続けていたらいつかはっきり変わる日が来ます。

バンドは解散しても音楽を辞めない
藁にも縋る思いで始めた「歌ってみた」

さまざまな形での音楽活動がある中で、歌い手を始められたきっかけはなんでしたか?

伊東 もともとバンドでボーカルをしていたのですが、そのバンドが解散してしまって。音楽を辞めるという選択肢は僕の中になかったので、その後も地方のお祭りやカフェで歌ったり、路上ライブをしてみたり…。そんな中、どうやらボーカロイドの曲はカバーをしていいらしいという話を聞いて、ニコニコ動画に投稿してみたんです。

歌い手から始まり、現在ではラジオパーソナリティや執筆、声優などマルチに活動をされていますが、今後チャレンジしてみたいことはありますか?

伊東 舞台ですね。他の活動と平行できるかどうかはわかりませんが、もともと劇団四季の『キャッツ』は30回以上観たくらいミュージカルが好きなので。

トレードマークの狐のお面が印象的ですが、活動をされているなかで感じるお面のメリット・デメリットを教えてください。

伊東 メリットはわからないですが、デメリットははっきり言えます。歌いにくい!紙でできているので汗をかくと毛羽立ってしまって、くしゃみがでるんですよ。島根の松江水郷祭に出演させてもらったときは、汗をかきすぎて、舞台袖に戻った瞬間破れてしまって。あのときは本当に焦りました(笑)

歴史がお好きだとお聞きしたのですが、好きな歴史上の人物はだれですか?

伊東 興味が尽きないという意味で、聖徳太子です。大学は法学部でしたが、論文を書いて、史学科の先生に見せにいくくらい研究していました。戦国武将なら毛利元就。戦を仕掛ける前に、相手の家臣団を裏切らせるような工作をしていたので、周りからは卑怯者と言われていました。でも、本人は「領民が戦で死なないのは謀略のおかげなので、卑怯だと嫌われていることを誇りに思っている」と。広島でのキャンペーンで、作品のことはそっちのけで毛利元就の話ばかりして、プロモーターに怒られたくらい大好きです。

読書好きで小説も執筆されていている伊東さんが高校生におすすめしたい本はありますか。

伊東 実は僕、小中学校のころは読書が嫌いだったんです。高校になってふと読んでみた本がたまたま面白くて読書にハマったので、無理におすすめされた本を読むより、自分が気になった本に手を伸ばしてみるのが一番だと思います。


今月の特集テーマ
「“カッコいい”の定義」

伊東歌詞太郎の「“カッコいい”の定義」

伊東歌詞太郎

自分のやりたいことを楽しんでいる人が一番カッコいいですね。本当はやりたくないのにやらなければいけないという雰囲気に呑まれて辛くなっていくことってありますよね。でも、僕は経験上、やりたいことだけをして生きていくほうが、周りの人も幸せにできると思っています。例えば、19世紀中期から20世紀中期の発明家ニコラ・テスラはあの時代に全世界を電波でつなごうとしていたんです。自分の研究が世界を良くすると考え、研究に打ち込んでいたのはとてもカッコいいですよね。法律家だったにも関わらず、趣味で研究していた数学で学界を揺るがせたピエール・ド・フェルマーもすごくカッコいい!



伊東歌詞太郎

DISC INFO

Best Album『三千世界』
【通常版】(2CD)
¥3,850(tax in)
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