1954年に姿を現し、日本のみならず世界中を魅了し続けている怪獣「ゴジラ」。そのゴジラ70 周年記念作品であり、日本で製作された実写版ゴジラの30作品目という特別な節目である映画『ゴジラ-1.0』(ゴジラマイナスワン)が11月3日(金・祝)に公開される。監督を務めるのは、これまでに『ALWAYS 三丁目の夕日』(‘05)、『STAND BY ME ドラえもん』(‘14)などをはじめ数々のヒット作を生み出してきた山崎貴監督。
本作では、監督・脚本・VFXを手掛けられた山崎監督に高校生スタッフが作品のことや監督の学生時代の貴重なお話などいろいろお話を伺いました!
作るということだけを考えた
取材にあたって、映画『ゴジラ-1.0』を観せていただきました。迫力あるゴジラのビジュアルだけでなく、ゴジラが町を破壊していくシーンが怖くて震えました。また、神木隆之介さんが演じる敷島(浩一)がゴジラに立ち向かう覚悟を決めるシーンがとても印象的で、何かをやり遂げることの大切さを学びました。
山崎 マジですか!? 大丈夫ですか? そんな重たい映画じゃないですけどね。大変な思いを汲み取っていただきました。
本作の監督を務めることが決まった時は「プレッシャー」と「嬉しさ」どちらの感情が大きかったですか?
山崎 両方です。『シン・ゴジラ』(’16/脚本・総監督:庵野秀明、監督:樋口真嗣)ってすごく良くできている映画なんです。その『シン・ゴジラ』が公開された後にゴジラの映画を手掛けることは、たぶん誰もやらないだろうなと思って。あ、俺か! やるしかないかと(笑)。ゴジラ(の監督)を引き受けること自体すごく大きなことなのですが、『シン・ゴジラ』の後という状況はハードルがもう一段階上がってるんです。僕自身、ゴジラ映画は本当に作りたかったですし、他の映画で培ってきた技術がようやくいろいろと実を結んできていたので “じゃあ今かな” という感じでした。だから喜びもあるし、プレッシャーというか “参っちゃったな” という気持ちはありました。
『シン・ゴジラ』の後に監督を務めることで意識されたことはありますか?
山崎 本当に面白い映画を作るということだけを考えました。そもそも『ゴジラ-1.0』は70周年記念作品じゃなかったんです。今年は69年で、本当は70周年じゃないんですけど、きっと東宝の方がこの作品は70周年に相応しいと認めてくれたのだとポジティブに受け取っています。
70年も続いているゴジラ作品ですが、ゴジラは死なないのでしょうか?
山崎 ゴジラは半分神様みたいなものなので、殺せないんです。『もののけ姫』と同じで祟り神なので鎮まってもらうというか。「鎮まりたまえ!」と言って、なんとか鎮まったけど、死なずに何かあったらまた出てきちゃうということです。
死なない生物ということですか?
山崎 半分生物だけど、半分神様。だって、ゴジラは核攻撃を受けても生きているわけじゃないですか。並の生物じゃないんです。核の恐怖や戦争の不安とか、そういうものがあの形をしてやって来るという祟り神なので殺しきれない。戦争はいつ起こるかわからないし、その不安な気持ちが人々の間にあるうちは殺せないという意味合いです。
山崎監督は大のゴジラファンとお聞きしたのですが、多くの方から長年愛され続けているゴジラの魅力を教えていただきたいです。
山崎 ゴジラを「祟り神」と言っていますが、ゴジラは宗教観も含めて日本人でないと作れないもののような気がします。理不尽なものがやって来て、それをみんなで鎮めるというのは神事やお祭りに近い感じがして。ゴジラ映画を作るというのは、その時にある世の中の社会的な不安みたいなものをゴジラという形で召喚して、みんなで鎮めるということなのかなと最近すごく思うようになってきたんです。『シン・ゴジラ』は3.11の後にできた作品で、3.11後の何か不安みたいなものがあって、今もいろんな不安が世の中にいっぱいあるじゃないですか。そういうものが沸々と出てきた時にゴジラという形で破壊神が現れて、それをみんなで鎮める。これは、そういう時々に作らなきゃいけないものなのかなと思います。
『ゴジラ-1.0』の時代設定は戦後の日本です。戦後の日本にこだわられた理由はありますか?
山崎 武器も何もない時代にゴジラが来た時、日本人はどうやって戦うのかという点が一番大きいです。何でも揃っている状況でゴジラと戦っても映画としては面白くなくて、マイナスな状態でみんなが工夫してなんとか成し遂げようとする時に映画的なドラマが生まれると思うんです。だから、何もないやばい時にゴジラが襲って来るというのは非常に描いてみたかったことでした。僕はこれまでに昭和や戦後の映画を作っていて、そこは自分のフィールドだと思っているので、自分の土俵にゴジラに来てもらいたいという思いもありました。
山崎監督は、今作で監督・脚本・VFXを担当されていますが、不安や苦労はありましたか?
山崎 ある種100%自分の好みで構成されてる作品なので、ダメだった時に全部僕の責任なんです。映画作りって映画が出来上がった時にどれだけたくさんのスタッフたちが「自分がいたからこの作品ができた」と言えるかどうかだと思っています。映画が上手くいったらたくさんのスタッフが自慢して、ダメだったら俺ひとりで引き受ける。監督というのはなかなか辛い立場ではあるんですけど、みんなから力を貸りて作っている以上は仕方がないと思ってます。
『ゴジラ-1.0』という作品名についてですが、ゴジラが熱線を発射する時に、体中の熱を放出して体温が「-1.0℃」になるゴジラの特徴をタイトルにしたのかと思ったのですが、『-1.0』に込められた本当の意味が知りたいです。
山崎 それは1ミリも考えていなかった!(笑) 僕の中では、戦後の何もないゼロの状況にゴジラがやって来て、さらにマイナスの状態になっちゃうっていうことで「-1.0」。体温が-1.0という設定はないですね(笑)
もし今、監督の目の前にゴジラが現れたらどうされますか?
山崎 ゴジラとの距離によりますが、ゴジラが来たら「うわー!」って言って、ドカーン! って割と最初につぶされてる人だと思います。みんなが逃げていればそっちの方面に逃げますけど、頭真っ白になるだろうな。本当に来たらやばいですね。
作品の世界にどっぷり浸れたのは、役者の皆さんの力も大きいのかなと思ったのですが、キャスティングは山崎監督の意見が反映されていますか?
山崎 キャスティングについての意見は監督なのでめちゃめちゃ尊重されますけど、僕だけが決めていくわけではなくて、みんなの意見を集約していく感じです。あと、決めたからといって役者さんに引き受けてもらえるわけじゃないんです。よくネットで「この役は〇〇がやれば良かったのに」って書かれることがあるけど、「(キャスティングは)そんな簡単なもんじゃないんだぞ!」って(笑)。役者さんのスケジュールの都合もあるし、キャスティングは大変なんです。今作でいうと、まず主演を決めて、主演が決まった後にヒロインの典子役を決めていきました。例えば料理映画で役者さんが本当に美味しそうに食べないと料理が美味しそうに見えないのと同じように、怪獣映画も目の前に巨大な怪獣がいるという恐怖を演じてくれない限り怪獣が現実に存在し得ないので、僕が今回言い続けていたのは、「本当に(演技が)上手い人でやりましょう」ということ。あとは、昭和の世界に似合う人。今回、役者さんたちに出演を依頼した時に「役者をやっている以上はゴジラ作品に出演してみたい」と言ってくれる方が多くて助かりました。
敷島浩一役の神木隆之介さん、大石典子役の浜辺美波さんのお二人の印象についてお聞きしたいです。
山崎 (NHK「連続テレビ小説」)「らんまん」良かったですね。あれはたぶん『ゴジラ-1.0』で培われた関係性が「らんまん」に活きた結果だと思うんですけど(笑)。二人とも役者さんとしてしっかりしているし、昭和に似合う感じだし。僕はこれまで神木君の戦う顔みたいなものはあまり見たことがないですが、今回戦争帰りという感じをすごく体現してくれたと思います。浜辺さんは、昭和女優というか往年の東宝の女優さんの感じをいまだに持っている稀有な方だと思います。
山田裕貴さん演じる水島四郎のシーンにすごく感動しました。山田さんについてはいかがですか?
山崎 山田君はいいやつだよ~! ナイスガイだよ~! (水島役は)5年前にオーディションで決めて、そこで若手の役者さんを何人か見て、最後に山田君がオーディションに来てくれてすぐに決まったんです。『ゴジラ-1.0』は予定よりちょっと公開が遅れたので、山田君は(『東京リベンジャーズ』の)ドラケン役でブレイクして、その後どんどん出世しちゃったから、この役を演じてくれるだろうかってちょっとドキドキしてたんですけど、気持ちよく演じてくれて、「ゴジラに出演できて嬉しい」ってすごく喜んでくれていました。
▶映画業界を目指す人に大切なこと。