今年横浜流星さんが主演を務めるもうひとつの映画『チア男子!!』が、5月に公開! ということで、『チア男子!!』の原作者で直木賞作家の朝井リョウさんにも取材に行って来ました! 朝井さんと言えば、『桐島、部活やめるってよ』『何者』でも知られるヒットメーカー。果たして、その高校~大学時代とは…?
作家人生における“青春期”
朝井 大学2年の秋に『桐島、部活やめるってよ』で新人賞をいただきデビューしたのですが、当時の担当編集者に「来年の受賞者が出てくる前に2冊目を出しておくことが大事だよ」と助言いただいたんです。本って、原稿を書き終えて出版されるまでに4ヶ月くらいかかるので、夏頃には原稿を書き終えておく必要があったのですが、高校生の頃から『風が強く吹いている』や『バッテリー』、『一瞬の風になれ』など青春スポーツ小説が大好きだったという話をしたら、じゃあ2作目でスポーツものを書きましょう、と。早稲田大学に入学したころから人気だった男子チアリーディングチーム「ショッカーズ」にすぐ取材を始めて、10ヶ月くらいで書きました。映画で描かれているのは前半の学祭編で、原作はその先の公式戦編まであります。個人的には関西人の弦とイチローの関係性が、書いていて楽しかったです。一番仲が良いけど一番嫌いという愛憎が入り混じる感情って、きっと皆さんあると思うし、人間には明るい面と暗い面があるという部分をこのふたりに投影できた気がします。筆致の粗さも含め、私の作家人生の中の青春期だったと思います。
“仮想敵”と戦うこと!
朝井 「大学時代に5冊出す」という目標を立てたのは、「10代でデビューした作家は次作がなかなか出ない」と周りから言われて、「うるせぇな」と思ったから(笑)。特に初期の頃は、“仮想敵”を作って、それに向かって走ることをエンジンにしていました。ただ、いざゴールしても想定していた敵はもうそこにいなくて、あれ、自分だけが戦ってた? って感じでしたね(笑)、お陰で目標達成できました。高校生の時は、出版社のある東京で暮らしてみたかったので、それをモチベーションに勉強していました。
男性なら横浜流星さん。
自分のベストショットを見つけたくなる
朝井 私、写真によって顔が変わる方がとても好きで、女性なら断然、前田敦子さん。最近なら松本穂香さんもそうかな。本当に顔が違いません? その男性版が横浜流星さんです。そういう方を見ると、男女問わず、自分だけのベストショットを見つけ出したくなるんですよ。横浜さんの、髪型や角度によって印象ががらっと変わる造形や抜群の身体能力など、『チア男子!!』によって様々な一面が世に知れ渡ればいいなと思っています。
リア充な高校時代!?
朝井 高校時代は、学校では小説を書いていることを内緒にしていたんです。“小説を書いているなんて絶対に思われてはいけない!”という強迫観念があって、 “小説なんて絶対に書いていない人”の顔をしていました。バレー部に入って、学校行事を楽しんで、体育祭で応援団長をやって…いかにも活発な生徒でいようとしていました。この冊子の読者の中には学校行事を面倒くさがっている人もいると思いますが、そういう人にこそ逆に応援団長など行事の運営側に回ることをおすすめしたいです。そうすれば、人からやりたくもない振り付けを強いられることもありません。まとめる側って大変そうに見えるけど、自分で物事を操縦できるという点で楽なんですよね。
応援団長とかしていました
小説家としての武器に
朝井 小説家は子どものころからの夢でしたが、岐阜で暮らしていた私からすると出版は“東京”で行われているもので、とても遠い感覚でした。そういうこともあって、高校時代は「小説家になるために本をいっぱい読もう」という考えにはならず、部活をして体を動かしたり学校行事に参加したり、ごく自然に生活していました。すると、『チア男子!!』を書いた時に、「身体性のある表現が得意な小説家は少ないから、それは武器だと思います」というような評をいただけたんです。小説家として読書量が少ないことをコンプレックスに感じることはありますが、無意識にしていた色々なことが武器になっていたんだなとも感じます。当時、“こんなことをやって何になるんだろう、小説家の夢に近づけているのかな?”みたいに、いちいち行動の意味を考えなかったことは、結果的には良かったなと思います。
現代の若者感覚はアップデートしているの?
朝井 意識的に「若者感覚をアップデートしよう!」とは考えていないです。だって、例えば私が突然TikTokのこととか書き始めたら、勉強したんだな~って感じが漂うと思うし、何より自分の肉体からかけ離れすぎていることはやっぱりノリノリでは書けないのかなと思います。私は、小説に「スマホ」という文字が出てくるのもまだ違和感がある世代。きっと高校生にとっては普通だろうなと思うし、むしろ現役高校生世代の方々がどんな小説を書くのか、早く読ませて! という気持ちです。
どこが完成のゴールなの?
朝井 物質的には、一度パソコンで書いて、編集さんとのやりとりを経て修正して、そのあと紙に印刷された状態で校閲さんからの指摘が入った状態で2回直したら完成です。だけど、感覚的には、いつまでも書き終えられていない気持ちになったり、逆に、書き出す前からもう書き終えているような気持ちになったりします。というのも、私は、“文章を書く”という行為は普通に英訳すると“write”ですが、“小説を書く”行為の場合は、“think”のほうがしっくりくると思っているんです。私の中では、小説を書くってつまり考えることなんです。書きたいことについて自分がどれだけ考えたか、自分なりに言葉にできるほど普段の生活の中で考えたかどうか。ノートにペンを走らせたりパソコンのキーボードを叩いている時間は、考えたことを形にしている時間なだけなのかなと。読者からすると「ちゃんと完結させてよ!」って感じだと思うんですけど、個人的には、登場人物が迎えるラストがどんなものであっても、「考え尽くした」と思えるかどうかが大事、という感覚です。自己満足すぎますよね(笑)
- 大学時代に出版した小説5冊
冊目(2010.2)
『桐島、部活やめるってよ』(集英社文庫)バレー部主将・桐島の退部をめぐり、交錯する17歳たちのリアルな感情。デビュー作。
冊目(2010.10)
『チア男子!!』(集英社文庫)
大学チア初の男子チームを結成した7人のメンバーたちの笑いと汗と涙の青春小説。冊目(2011.10)
『星やどりの声』(角川文庫)
お父さんが遺した喫茶店「星やどり」を営む早川家・母と6人の子供に降り注ぐ奇跡。冊目(2011.12)
『もういちど生まれる』(幻冬舎文庫)
大人と子供の狭間で、迷いや焦りを感じながら生きる若者たちを描いた連作短編小説。冊目(2012.3)
『少女は卒業しない』(集英社文庫)
廃校が決まった地方の高校の最後の卒業式。少女たちが迎える、7つの「さよなら」の物語。
横浜流星さんへメッセージ
朝井 横浜さんは絶対に黒髪がいい!(笑)
『最近の横浜さんのベストショットは、2019年のカレンダーの表紙です。』
‘89年、岐阜県出身。早稲田大学文化構想学部在学中の’09年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。現代の若者の心理を繊細に掬い取る作品が共感を呼んでいる。
- 原作:朝井リョウ『チア男子!!』(集英社文庫刊)
- 監督:風間大樹
- 出演:横浜流星・中尾暢樹
瀬戸利樹、岩谷翔吾、菅原健、小平大智/浅香航大、他
5月10日(金)全国公開