パラリンピックで日本勢が3大会連続でメダルを獲得したことで、近年注目度が上がってきているユニバーサルスポーツ・ボッチャ。年齢や性別、障がいの有無、言語の壁を越えて誰もが楽しめるこのスポーツを通して、「繋がり広がるミライ」を、15ヵ国籍16校の学生らが集い考えました。なんと、スペシャルゲストとしてパラリンピックにも出場している河本圭亮選手と江崎駿選手(ともにトランコム株式会社所属)がお越しくださり、お話を聴くだけでなく、一緒にプレイもさせていただきました!
ルール
まず先攻チームがジャックボールを投げたあと、赤いボールを投げます。次に後攻チームが青いボールを投げ、その後はジャックボールから遠いチームが投球。それぞれのチームが各6球を投げきったところで試合終了、ジャックボールにより近いところにボールがあるチームの勝ちとなります。
クラス分け
ボッチャの国際大会では障がいの程度により、BC1~4のクラスに別れて戦います。
BC1:車いす操作不可で四肢・体幹に重度の麻痺がある脳原性疾患のみのクラス。
BC2:上肢での車いす操作がある程度可で脳原性疾患のみのクラス。
BC3:疾患を問わず、四肢・体幹に重度の麻痺があり、選手自身での投球が困難なクラス。
BC4:筋ジストロフィーなど、BC1・BC2と同等の重度四肢機能障がいのある選手が行うクラス。
競技名:ボッチャ (BC3クラス)
出身地:名古屋市
生年月日:1999年3月27日
競技アシスタント:河本 幸代さん(母)
主な成績
2021年 東京パラリンピック 個人:14位 ペア:銀メダル
2022年 日本ボッチャ選手権大会 個人:2位
2023年 日本ボッチャ選手権大会 個人:4位
アジア・オセアニア選手権2023香港 個人:4位
競技名:ボッチャ(BC4クラス)
出身地:春日井市
生年月日:2001年3月25日
主な成績
2021年 東京パラリンピック 個人:20位 ペア:8位
2022年 バーレーンボッチャワールドカップ 個人:4位
2023年 日本ボッチャ選手権大会 個人:3位
アジアパラ競技大会(杭州) 個人:4位
お二人がボッチャに出会ったのはいつ頃でしたか?
河本 小学2年生のときに体験会に行ったのがきっかけでした。障がいの有無に関わらず、誰もが楽しめるスポーツで、ラスト1球で勝敗が逆転することもあり、最後まで勝負がわからないところが魅力ですね。
江崎 中学1年生の頃なので、もう10年以上前ですね。障がいがある僕にもできるスポーツがあるんだと感動して始めました。シンプルなルールですが、プレイしてみると奥深く、戦術性が高いので、一度体験するとハマる方が多いですよ。
一般の方とも体験会をされているのですよね?
河本 日本ボッチャ協会のボッチャキャラバンという広報活動で小中学校の生徒児童のみなさんとプレイすることがあります。みなさんと交流しながらボッチャの魅力だけでなく、僕自身のこともお伝えすることができるよい機会だと思っています。
江崎 いつも子どもからお年寄りまで楽しんでもらえるので、今日は皆さんにもぜひ楽しんでもらえると嬉しいです。
お二人はパラリンピックなどの国際試合にも出場されていますが、海外の選手との交流もあるのですか?
河本 試合の前に交流ルームがあって、そこでお土産の交換をしたりします。
江崎 いろんな国の方からいろんなお土産をいただきますね。メキシコの謎の人形とか(笑)
河本 ギリシャの方にいただいた壁画のマグネットを冷蔵庫に貼っています。よく貰うお土産はピンバッジで、私は小さい将棋の駒などを持っていきます。
江崎 僕はお寿司のキーホルダーなどを持っていきます。日本の文化を感じられるものが喜ばれますね。
河本 もちろん試合外の時間でコミュニケーションを取ることもありますよ。私は英語ができないので翻訳アプリを利用しています。
東京パラリンピックの選手村はどんな雰囲気でしたか?
河本 コロナ禍だったので通常のころよりは交流の機会は減ってしまいましたが、選手村ではお互いアイコンタクトを取りあったりしていましたし、お土産交換はいつもどおりやりました。
江崎 周りがみんなアスリートということでなかなか新鮮な体験でした。競技以外のところで意外な一面が見られたりしたのも面白かったです。日本食だけでなく様々な地域のご飯が食べられたのも良かったです。
ボランティアの方との関わりはいかがですか?
河本 ホテルから試合会場まではバスでの移動が多いのですが、運転手の方はもちろん、車椅子の固定などもボランティアの方がしてくださるのでとてもありがたいです。海外だと運転手さんがラジオで流れている曲を口ずさんだりしていて、海外ならではの雰囲気を感じられて楽しいです。
江崎 ボランティアの方とも世界各地で集めたピンバッジ交換をしたりしますよ。結構集めている方が多いので、みなさんもボランティアに参加されるときはピンバッジを用意しておくとよいですよ。
一度体験すると老若男女みんながハマるというボッチャの魅力を探るため、実際にボッチャをプレイしてみます。今回は4人1チームに分かれてのチーム戦。ジャックボールをどこに投げるか、誰がどの順番で投げるかによっても戦局は変わってきます。
ボッチャ初挑戦のメンバーが多く、なかなか思ったところにボールを投げられない中、ジャックボールの真横に止める、いわゆる「ビタ付け」に成功する人がいると敵味方関係なく歓声があがり、会場全体が大盛り上がり。ボッチャには他のボールを押す「プッシュ」やボールの上にボールを乗せる「ライジング」などの技術もあり、ラスト1球まで勝敗がわからないハラハラな試合は見ているだけでも楽しく、釘付けになってしまいます。
決勝戦には河本選手と江崎選手にもご参加いただきました!
河本選手は自身での投球ができないため、ランプという勾配具を使用してボールを転がします。選手がランプの角度や距離感などをランプオペレーターに伝え、ランプオペレーターがランプをセット。選手がボールをリリースします。ランプオペレーターは公にも選手として認められているので、パラリンピックでは選手とともにメダルを獲得することが可能なんです。
河本選手も江崎選手も投球前に宣言した狙い通りの場所にピタリとボールを止めるスーパープレイを連発。パラリンピック選手の技術の凄さを目の当たりにして、本当にこの競技は障がいの程度や有無は関係なく勝負ができる競技なんだと実感しました。
ボッチャの魅力を体感したあとは、4つのグループに分かれてボッチャ、そしてユニバーサルスポーツをもっと世の中に広めるためにはどうすればいいかを話し合いました。
●GROUP1
実際にボッチャをプレイすると、予想以上に面白く、ドラマティックな展開になることがわかりました。一度やってみると、もう一度やりたい!と感じたスポーツの魅力を知ってもらい、多くの人に参加してもらうためには、「生活の中にいかに取り入れるか」が重要という視点で議論が進みました。
「学校での体育の授業として小中高と実施することを法律で決めてしまう」「道徳などの時間で、ボッチャやユニバーサルスポーツの持つ意味や価値、背景などを学べる機会を作る」など学校教育に取り入れることで、小さいころから慣れ親しむことができると思います。今、国境を越えて、みんなが知っている身近なものといえば、「じゃんけん」なので、掃除当番を決めるときも、給食デザートの争奪戦も、なにか決め事をするときにはなんでもボッチャで決めたら楽しそう!またボッチャは体を動かすだけではなくとても戦略的で、無数の展開があるので、スマホゲームと相性がいいはず。アプリ化してたくさんの人に遊んでもらえれば、ルールや魅力を知ってもらえそう。さらにパラリンピックだけではなく、オリンピックでも取り入れることで「障がい者の人のためのスポーツ」ではなく、「どんな人たちも一緒にできる」というイメージを広く伝えることができるのではないでしょうか?オリンピックとパラリンピックを横断して、同じ競技で参加するという形のスポーツとして開催するのが、ユニバーサルスポーツとしてふさわしいと感じました。
●GROUP2
フランス生まれの「ペタンク」、フィンランド生まれの「モルック」など、世界にはボッチャに似た競技がいくつかあり、それぞれの国や地域で身近に親しまれているようです。そんな競技のようにボッチャをもっと身近なものにするための方法を考えました。
ボッチャを身近なものにするために、まず「テレビでボッチャの試合を放送する」「ボッチャを体験している様子をSNSで載せる」などメディアを活用する案が上がりました。多くの人にボッチャがどんな競技か知ってもらうことが普及の第一歩だからです。さらに、「体育の授業に取り入れて、みんなが一度はボッチャに触れたことがある環境を作る」「AOI CELESTIEのようにボッチャができる施設を作って、イベントを増やす」「ボッチャの体験キットをどこでも買えるようにする」「選手の話を聞くことでボッチャが身近に感じられたので、このような場を設ける」など、競技にに触れる機会を増やすことで、ボッチャがサッカーや野球のような当たり前に身近にあるスポーツになると思います。ひとつのことに一緒に取り組むと会話のきっかけが生まれるので、なんでもいいからひとつのことに一緒に取り組んでみることがインクルーシブ社会を実現するために大切。その手段としてボッチャは最適です!
●GROUP3
GROUP3ではまず各国のユニバーサルスポーツの状況を聞き、普及している国の事例を参考に、日本ではどんなことができるかを考えていきました。
コロンビアはユニバーサルスポーツが強く、テレビなどのメディアでよく取り上げられていて、健常者の人も含めてユニバーサルスポーツをやりたいと思っている人はたくさんいるそうです。また、フィンランドでは、ユニバーサルスポーツに限らずアイスホッケーなどの人気スポーツでも、健常者用と障がい者用がセットになったスペースが町中でたくさんあり、だれでも触れやすく、身近に感じているのだそう。やはり多くのメディアで取り上げたり、ボッチャに触れられる場所や機会を増やすことが有効だと思いました。たとえばコンビニ横に専用スペースを作って「コーヒーを買ったら、ボッチャで遊べる」というサービスがあれば流行るかも!また、学校の授業でユニバーサルスポーツを含めたさまざまな多様性について学ぶ機会はあるけど、座学とユニバーサルスポーツ体験が一緒になった機会はなかなかないので、このイベントのように実際にプレイする機会が増えると嬉しいです。
●GROUP4
障がいも言語や文化も関係なくひとつのチームとして一体になって盛り上がることもできて、コミュニケーションの手段としても優秀。そんなボッチャを広めるにはどうするとよいのか?自分たちに身近な事例をもとに議論しました。
誰でも簡単にチャレンジできる一方で、思い通りにボールを投げる技術やどのボールをどう動かすかという戦略性が必要でスポーツとしての奥深さを感じられたボッチャ。もっとメジャー競技になれるし、すべての人たちをつなぐ架け橋になるポテンシャルがある!というのがこのグループの総意。にもかかわらず、日本でも海外でもまだあまり浸透していない様子です。その理由を考えたときにまず出た意見が「触れる機会が少ないこと」。家の近くの公園でカヌーポロという競技をやっていたり、高校の部活で弓道をやっていたり、身近なところで見かけたことがスポーツを始めるきっかけになった人が国を問わず多かったことから、駅前などの人通りが多い場所でボッチャの試合をするというアイデアが出ました。ただボッチャをするだけでなく、初めての人でも試合観戦を楽しめるよう、わかりやすくルールを説明したパネルを設置する必要もあると考えました。実際に選手のスーパープレイを目の当たりにして「かっこいい!」と感じたので、生で試合を観戦することでサッカーや野球のように選手に憧れを抱く人が増えそうです。また、実際にプレイしてみたいなと思っても「プレイできる場所が身近にない」「道具を揃えるのが大変」というのがハードルになってしまうので、本日の会場であるAOI CELESTIEのように気軽にボッチャができて道具も貸し出してくれる施設が増えるともっとボッチャのプレイ人口も増えるのではないでしょうか?
河本選手
江崎選手
「ユニバーサルスポーツ」について考えることで、たくさんの気づきがありました!
本イベントの様子はBOYS AND MENの本田剛文さんにレポートもしていただきました!レポート動画もぜひご覧ください。
本田剛文(BOYS AND MEN)
愛知県出身 特技はおしゃべり 世界遺産検定2級
東海テレビ 「スイッチ!」レポーター
NHK 「キソ英語を学んだら世界とつながった。」
世界の様々な国の家族やこどもたちと会話し、習慣や生活について語り、人々とつながる番組にレギュラー出演中。
臼井ゆり(東海テレビ CSR推進部)
東海地区の歴史や伝統文化、地元のアーティストを中心に、地元愛を大切にした多くのイベントや舞台、観客が参加できる体験型イベントのプロデュースを事業部所属時に数多く手掛けた。多文化交流プログラムでは、多様な学生たちが出会い、体験発見し、学びあえる場を企画。