映画『屋根裏のラジャー』|寺田心、百瀬義行監督、西村義明プロデューサーが生み出すのはどんなイマジナリ?

『メアリと魔女の花』以来、6年ぶりとなるスタジオポノックの長編アニメーション映画『屋根裏のラジャー』が12/15(金)より公開。
主役のラジャー役を熱望し、長きに渡るオーディションを経て見事ラジャー役を掴み取った寺田心さん、そして百瀬義行監督、西村義明プロデューサーに高校生がお話を伺いました。

STORY
彼の名はラジャー。
世界の誰にも、その姿は見えない。
なぜなら、ラジャーは愛をなくした少女の想像の友だち―イマジナリ-。
しかし、イマジナリには運命があった。
人間に忘れられると、消えていく。
失意のラジャーがたどり着いたのは、かつて人間に忘れさられた想像たちが
身を寄せ合って暮らす「イマジナリの町」だった。

イマジナリって
すごく人間味があると思う

作品を観て私たちそれぞれ感じ方が違ったのですが、現在15歳の寺田さんは完成した本作をご覧になってどのように感じられましたか?

寺田 大切な言葉やシーンがたくさん散りばめられている作品だと思いました。家族の愛やひたむきに支え合う友情、自分の生きる道や夢に向き合うことの大切さ、自分を信じて諦めない心の強さを感じました。観ていただく皆さんの感じていただく気持ちはそれぞれだと思います。今、イマジナリ(想像の友だち)がいる人は、イマジナリとのこれからを想像できるだろうし、これからイマジナリができる人はワクワクしていただけると思います。

本作は「プレスコ録音」で収録されたそうですが、どのような収録方法ですか?

百瀬 プレスコ録音になった事情は寺田くんの声変わりの時期だったので、コンテが完全にできていたかどうかという時にセリフだけを先に録ったんです。プレスコ録音は声に合わせて作画することができるメリットがあって、声の張り具合に合わせて絵を描けるので声と絵のマッチングが良いんです。プレスコ録音したことによってラジャーがより生き生きしました。寺田くんにお願いすることになった要因は声と演技力でもあるのですが、寺田くんの声を聞いているとラジャーは寺田くん以外にはもう他はありえないという感じです。

寺田さんは「ラジャー役は誰にも渡したくない」とコメントされていましたね。

寺田 オーディションを受ける前に1枚の絵とセリフをいただいたのですが、ラジャーという存在にすごく惹かれたということと、僕にも昔コロちゃんと名付けたクマのぬいぐるみがいて、ぬいぐるみだから見える存在ではあるけど想像の世界で喋ったり遊んだりしていたことがあって、その思い出がよみがえる感覚があったんです。

私たちもこの映画を観て自分自身の幼少期を思い出しました。強い気持ちでラジャー役を務められた寺田さんが今作に参加されて得られたものを教えてください。

寺田 アニメーション映画の声優は初挑戦でしたが、声優というお仕事が大好きになりました。ラジャーは想像の世界の人物ではありますが、本当にひとりの人生を演じさせていただくような気持ちでやらせていただきました。イマジナリには生まれた瞬間があって、想像してくれた人たちとの思い出や感情で成長する部分はすごく人間味があるなと思いました。自分の埋めることができなかった感情を、ラジャーが具現化してくれたような気がします。

主題歌『ナッシングズ・インポッシブル』は真っ直ぐな歌詞と心が安らぐようなメロディーや歌声がすごく素敵で、映画を観終わってから何度も聴き返すほど好きな曲になりました。ア・グレイト・ビッグワールドのお二人に主題歌をオファーされたそうですが、完成した楽曲を初めて聴かれた時はどのような印象でしたか?

西村 映画の公開は2022年の夏を予定していたのですが、制作過程でいろんなことがあって公開が1年延びてしまったんです。現場が大混乱の時にこの主題歌が届いてタイトルに「ナッシングズ・インポッシブル(不可能なことはない)」って書いてあったんです。そして曲を聴いてみたら涙が出てきて…。でも、聴き終わった時に不可能なことはあるねんで! と思って(一同笑)。大人たちは今の若い世代に向けて「君たちが生きてく時代は大変」って言うし、世の中はそんなニュースばっかりだし、何もやってないやつが頑張っている人を笑うシニシズムが広がる世の中になっているけど、僕らは君たちが生きる世の中の方が絶対素晴らしくなるって言わなきゃいけないと思ってる。見えないところで頑張っている人間がたくさんいて、そんな人たちがちゃんと頑張ったねと思われるような映画を作るべきだと思ってこの映画を作りました。不可能なことは世の中にあるいうことを思ったりしつつも、この曲には本当に励まされました。

本作は新たなデジタル技術を用いたフランスのクリエイターチームとコラボレーションされていますが、お仕事をされる上で大変だったことはありますか?

百瀬 大変なことを言えばたくさんあるのですが、この映画にとってすごくプラスになったことの方が大きいです。例えば日本の絵は線で輪郭を描いてそこに色を乗せて作っていくことが多いのですが、ヨーロッパの絵画のあり方は線ではなく陰影で描くので輪郭がはっきりしているわけではないんです。それによって皮膚の赤みや肉感的な感じ、そして背景に合わせてライティングを設計できるので影の変化も表現できるんです。背景とセルのマッチングが良くて、背景で考えた空間の中にちゃんとキャラクターが存在しているように見える絵を作ることができる。フランスのチームのクリエイターはやっぱりセンスがいいと思います。

人生の転機や岐路に立った時に
観返して欲しい

寺田さんにとってラジャーのような存在を作るとしたらどんなイマジナリになると思いますか?

寺田 本当に何も考えずに言うと物知りなイマジナリがいてくれると嬉しいです。何かわからないことがあったら隣で答えてくれるようなイマジナリ(笑)。でもやっぱりコロちゃんかな。コロちゃんともう一度話して、幼少期の僕に伝えてくれたことの意味を聞いてみたいです。

西村さんと百瀬監督はいかがですか?

西村 僕には既にイマジナリがいるんですよ。それは人生の岐路があった10歳と14歳と19歳と23歳の西村くん。大人になると大変なことがいっぱいあって仕事を辞めたくなることもあるのですが、そんな時は過去の自分に「君たちはどう思う?」と聞くんです。僕はこの映画に10歳の時にアニメーションが好きだったこと、14歳の時に感じていた疑問、18、19歳で映画を作ろうと思った気持ち、23歳ぐらいの時にスタジオジブリに入った時の想いを詰め込んだつもりです。こういう仕事をしているとイマジナリとの境界はとても近しいところにあるような気がしています。

百瀬 自分の中で判断しなくてはいけない時に自問自答することがあると思うのですが、それも大きく言えばイマジナリのひとつだと思います。僕は子どもの頃に漫画を描くのが好きだったのですが、今思うと人に見せるために描いていなかったんです。自分の中で想像しているだけの漫画の世界も一種のイマジナリーフレンドなんだろうなと思っています。

最後に本作を楽しみにしている高校生に一言お願いします。

寺田 高校生の先輩方、そしてどの年代の方々にも観ていただきたいほど素晴らしく、人生の転機や岐路に立った時に観返して欲しい作品です。僕は2回観たのですが、1回目と2回目では視点が全然違いました。キャラクター一人ひとりにスポットライトを当ててみると、“このキャラクターにはこんな人生があったんだ” “このキャラクターのセリフは深い”と思うことがあると思いますので、ぜひいろんな方に観ていただきたいです。そして、映画を観て皆さんが受け取った何かを忘れないでいて欲しいです。

映画『屋根裏のラジャー』親子試写会ティーチイン付き舞台挨拶 in 大阪

12月2日(土)大阪ステーションシティシネマでの親子試写会の上映終了後に、寺田心さん、百瀬義行監督、西村義明プロデューサーによるティーチイン付き舞台挨拶が実施されました!
ティーチインでは、会場の子どもたちからたくさんの手が挙がり、中でも「自分の夢のためにどのような努力をしてますか?」という質問に寺田さんが「何事に対しても諦めない気持ちとか、好きな気持ちとかを大事にしています。学校の校長先生に教えてもらった “時間は有限、努力は無限、後悔は永遠” という言葉の意味が中学生になるとわかったんです。もう友だちと遊んでいると楽しくて…本当に時間がないと思ったんです。でもそんな中で30分とか10分とかちょっとした時間でも良いので夢に向かって勉強するようにしています」と、現在中学3年生である等身大の言葉でアドバイスされていた様子が印象的でした。

読者プレゼント

『屋根裏のラジャー』
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  • 声の出演:寺田心 鈴木梨央
    安藤サクラ
    仲里依紗 杉咲花 山田孝之
    高畑淳子 寺尾聰
    イッセー尾形
  • 原作:A.F.ハロルド 「The Imaginary」(「ぼくが消えないうちに」こだまともこ訳・ポプラ社刊)
  • 監督:百瀬 義行
  • プロデューサー:西村義明
  • 配給:東宝

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12/15(金)より全国公開