株式会社町おこしエネルギー 沼田昭二社長
「業務スーパーの創業者が自己資産100億円を投じて地熱発電事業を始めた」というニュースを見て、一体どんな方なのかお会いしてみたくなり、さっそく取材に行ってきました!
まずはどんな会社か教えてください。
地熱発電の開発と関連事業で
地域活性化を目指す
日本の将来の食料自給率アップと純国産再生エネルギーによるエネルギー自給率アップで地域活性化を目指し、地熱発電事業、地熱発電の熱水を利用したハウス栽培や養殖事業、耕作放棄地の農地再生、地熱開発に必要な人材育成と地熱業界の底上げのためのフランチャイズシステムに取り組んでいます。
社長が手がける地熱開発は
何が画期的なの?
パッケージ化したフランチャイズで
時間・費用を大幅に短縮
これまでの既存発電所は、そのほとんどが開発から運転開始までに平均15年以上がかかってきました。必要とされる数100億円の経費は3社〜5社で組んで受け持つというのが通常です。でもそうすると関わる会社が多いだけ、どんどん納期が遅れていくんですね。そこで、スーパーと同じです、設計もオーダーメイドではなく同じ発電条件の設計・開発にして、時間と費用を大幅に短縮し、5年で100億円というパッケージにしました。作業日数を短縮できる自走式の掘削機もオリジナルで設計しました。
これは日本で初めての取り組みです。ここにはヨーロッパなどの方式も参考にしました。時代が厳しくなると、お客さんのニーズは良いものをより安く求められるようになります。そうなると無駄・ロス・非効率を徹底的に削除する必要がありますよね。地熱発電は一度仕込むとバルブひとつで24時間安定のエネルギーが得られます。これだけのエネルギーを木材で得ようと思うと、木材チップが毎日200トン以上必要なんです。
現在熊本県阿蘇郡で開発を進めていますが、将来の日本のためにも毎年1ヶ所ずつは発電所を作っていきたいと考えています。
なぜ業務スーパー社長退任に踏み切ったの?
海外から日本を見るほどに
自給率向上は急務だと感じた
私は、神戸物産という会社で「業務スーパー」を創業しました。神戸物産の社長は、今息子が継いでくれていますが、それまで私は月に三度は仕事で海外に行っていました。500回以上海外に行き、世界中を見る中で、日本の食料自給率が低すぎること、純国産エネルギーについては12%しかないこと、さらには少子化し、国の債務が増える一方という危機的状況を感じてきました。
地方創生をなくして日本の将来はありません。次世代の若い人が将来に夢を持てるかどうかがすべてです。ですから、町おこしと地域活性・地方創生、これと純国産の自給率アップを融合していくことを大義・使命として、6年前に「町おこしエネルギー」を立ち上げました。私自身、甲状腺がんや脳幹脳梗塞を患っていましたので、できるだけ早く取り掛かりたいと思い、他社の製薬会社の研究室にいた息子を呼び戻し、4年間一緒に働いた後、6年前に継いでもらいました。
社長の業務スーパー時代の伝説的エピソードは?
今日は北海道、明日は九州…
国内外を飛び回る並外れたパワー
(事業開発部門の岡本部長が回答)2000年の3月に1号店がオープンして、今で23年ほどですが、すでに1000店舗以上あるので単純に計算して1週間に1店舗のペースでオープンしてきたことになります。私は、前職は別の食品会社にいて神戸物産に入りましたが、この圧倒的なスピード感、決断力の速さは他では見たことがないなと思いました。コンビニ以外の中規模以上のスーパーで1000店舗以上の展開というのは、おそらく日本で初ではないかと思います。海外も日本も飛び回っていて、仕入れや工場の視察、商品のチェック、勉強のためなど、その移動距離だけを考えても、パワーは半端ないなと思っています。
社長はどんな高校生でしたか?
小学生の頃から68歳まで
ずっと変わらず仕事をしてきた
高校1年までは大学に進学するつもりだったのですが、家庭の事情もあり進学が叶わず、卒業後は当時売り上げ一番だった神戸三越で1年半社会勉強をさせていただいて、その後商売をしようと決めました。当時は大工さんだったり左官屋さん、水道屋さんなどあらゆるアルバイトをしました。正直、私は本当に不器用で仕事しか知らないんです。皆さんにはちょっと想像もつかないかもしれないですが、昔は鉄や銅線、食用ガエルなどが売れたんですね。小学2年の頃からそういったものを拾って売ったりして、小学4年からは正式に新聞配達などをして、ずっと仕事をしてきて今68歳に至ります。ただ、学生時代は先生にも本当に助けられました。授業が終わった後は先生の寮に遊びに行ったりもして。今はそんなことはないでしょうけどね。
技術者育成の専門学校について教えてください!
需要拡大にもかかわらず人材不足
北海道に技術者育成の学校を新設
掘削の技術者が高齢化し、後継者がいない状態に陥っていたため、私たちも技術者の育成に力を入れていきたいと思い、それらの技術を学べる「掘削技術専門学校」を北海道に作りました。
これも日本では初めての専門学校です。この技術が使えるのは地熱発電だけではなく、水井戸から石油掘削、資源の掘削、洋上風力まで、さまざまな活躍の場があります。例えば今三菱商事さんたちが手掛けておられることでも話題の洋上風力は、先日清水建設さんが作ってくださるまでは日本には工事に使う大型のクレーンがありませんでした。私もヨーロッパから船で運んでもらう場合を見積もりましたが、往復運賃だけで20億円、1日のレンタル料は4000万円。海が荒れて1日遅延すると、4000万円の追加料が発生していく計算です。今やっと日本の技術でクレーン作業ができるようになりました。私たちも技術者の育成に力を入れていきたいと思っています。すべての業者さんが手を広げて卒業を待っておられるので、就職率は1000パーセントですね(笑)
今、すごい求められているんですね。
ちなみに皆さんは、一人が1年間に食べる根菜の量ってどれくらいだと思いますか? 実は約0.5トンと言われています。1ヘクタールに大体30トンから40トンの野菜がとれます。これで、60人から80人が生きていけます。「町おこしエネルギー」では、これまでに1000ヘクタールの耕作放棄地を農地に再生しました。いざという時には、ここで育てた野菜で6万人から8万人が生きていけることになります。もちろんあってはいけないことですが、万が一に備えた防衛は必要です。これは水も同じですね。掘削もそうです。日本の資源は地下にありますが、その地下を掘削できなくなると終わってしまうんです。
やりたいことは学生時代から明確でしたか?
立場が変わり、若い頃には
見えなかった視点が生まれてきた
おそらく皆さんもそうだと思いますが、私も若い頃は自分の将来がどうなっていくかは見えず、不安が大きかったと思います。経験がないですからね。自分のことで精一杯で自分の商売がどうなっていくかもわかりませんでした。ただ、立場や年代によって見えるものは変わってきます。食料の自給率をなんとかしたいと思い始めたのは10年ほど前からです。次世代の顔を見ていると、やっぱり子どもたちのために何かをしたいと考えるようになりました。業務スーパージャパンドリーム財団を立ち上げたのも、そのためです。今は海外にトライする日本人留学生や芸術家、スポーツ選手など毎年400人を支援しています。やはり皆さんにお世話になってできた業務スーパーですので、次世代のために命の限りはできるだけのことをしてあげたいと思っています。
社長も踏み出すことが怖いなと思うことはありますか?
怖がりでもいい
まずは自分を信じることが大切
実は私はかなり怖がりなんです。誰も信じてはくれないですけど(笑)。小さい頃は母親に「ちゃんと自分で決めなさい」と叱られていたくらい。でも私は怖がりでいいと思っています。勝負の世界というのは、次がない場合があります。企業としても、一度失った信用は取り返せないことがあります。質実剛健という言葉がありますが、質素倹約の中で、常に自分を正して身のあるものを作り、必要な時には思いっきりやる。不安な気持ちはありますが、自分を信じることが重要です。まず自分を信じないと、相手を守ることも、何もできませんからね。
世の為・人の為である
これは社訓の一つ目でもあるのですが、大義と使命感が通らないことはすべきではありません。神様は絶対に見ていますから。
次世代の為になる
私が町おこしエネルギーを立ち上げるきっかけにもなったことですが、何かを決断する時には、次世代の子どもたちの為になるかということを、いつも重要視しています。
無駄・ロス・非効率をなくす
今は時代もそういった潮流にありますが、これは常に意識しています。業務スーパーの仕組みは、徹底的にこれらを排除したものですし、地熱開発の仕組み作りの基本にもなっています。
沼田社長の朝ごはん&モーニングルーティン
沼田社長
高校生へメッセージ
できれば、型にはまらず自由な発想で0からものをつくれるような人が育って欲しいですね。もちろん1をブラッシュアップして20や50にする力も大切ですが、新しいものをつくることはだんだん難しくなってきますから。時代によって「今の子は甘い」などと言われることもあると思いますが、時代時代に合った生活をすればいいと思うんです。自由奔放に生きればいい。さまざまな部門でトライして欲しいなと思います。
ななみ
かな