3月1日(月)からスタートする「Welcome Youthキャンペーン」は、都立の美術館・博物館6館をオンラインコンテンツや春の展覧会・イベントで深~く知ろうというもの。自らもどっぷりと沼にハマった学芸員・司書さんたちにちょっぴりマニアックな楽しみ方をお聞きして、新しい沼へと誘っていただきました。
東京都現代美術館 美術図書室
司書 鞭馬裕次郎さん
存在を知っているだけで
“美術通”間違いなしの図書室
現代美術館の美術図書室はどんな図書室ですか?
鞭馬 現代美術館は、美術だけでなく建築やファッション、デザインといった幅広いジャンルで展覧会を開催していて、ここは美術館の中にある美術専門の図書室になります。美術の専門図書室としては全国的に見ても有数の規模で、約27万冊の資料を所蔵していて、無料で一般の方に公開しています。
司書さんってどんなお仕事をされているんですか?
鞭馬 図書室で所蔵する本を選んで購入し、図書室で使えるように整理して、図書室に来室されるお客様に提供しながら、本の保管も適切に行っていく、というのが基本のサイクルです。本にラベルを貼ったり、データを入力したり、壊れた本を直すといった図書室を運営するための内側のお仕事と、お客様の質問に答えたり、資料の展示をしたりといった、お客様に直接的なサービスを行うお仕事、その両方があります。他にも書店の方と本を買うやりとりをしたり、書庫の環境を整えたり、古い貴重資料をデジタル化してインターネットで見ていただけるようにしたり、他の美術館に資料の貸し出しをするといった仕事もあります。
お仕事の好きなところは?
鞭馬 美術図書室には一般的な図書館では扱わないような美術本もありますし、個人的に装丁などのデザインや紙の質感も含めて本が好きなので、仕事として日常的にそういった本に触れられるところが好きなところですね。
普段どんな方が利用されているんですか?
鞭馬 他の美術館の学芸員の方や大学等に所属している研究者の方もいらっしゃいますし、展覧会を見に来られた方、ご近所に住んでいる美術が好きな方、小さなお子様連れの方など、美術の専門家から一般の方まで、幅広く利用していただいています。
高校生におすすめの利用方法を教えてください!
鞭馬 現代美術って、わかりづらいと思われるかもしれないですが、特に高校生の方には「これは自分の趣味に合わない」などと興味の幅を限定せずに、いろんな美術作品や美術書に触れてもらうのがいいと思うんです。ここでは新刊の雑誌なども読んでいただけるので、気軽に利用して図書室の雰囲気を楽しんでいただくだけでもいいと思います。
現在は感染症対策のため、利用は予約制ですが、美術館で展覧会を見て、その後気になった作家の本を図書室で読んでいただくという使い方もおすすめです。現代美術館では作家のインタビュー動画などのコンテンツをウェブサイトからも発信しているので、直接来館できない方はそちらもぜひご覧いただければと思います。
ズバリ、鞭馬さんは何マニア?
「本」マニア!
鞭馬 普段から食費や生活費は節約したいなと思っているんですが、本に関しては“仕事にも繋がるし!”という言い訳をして、つい散財してしまいます。美術に関する本はもちろん、文学も好きなので、書店や古書店、ネットショップ等で探して買っています。司書は本マニアが多いと思います。
本の沼の入り口はどこにありましたか?
鞭馬 高校生の頃から本は好きで、私の高校時代はまだインターネットが普及していない頃だったので、特に雑誌で情報を早く得ていました。漫画雑誌、文芸雑誌、スポーツ雑誌など、毎週月曜日はこの雑誌が発売されるからこの雑誌を、火曜日はこの雑誌を、と毎日のように買っていました。アルバイトで稼いだお金はほとんど本や雑誌に(笑)。大学生の時には本屋さんでアルバイトを始めて、図書館でもよく本を借りていたので、その頃にいろんな本を見て興味を持ち、書店や図書館など本に携わる仕事をしたいなと思うようになりました。
Welcome Youthキャンペーン、おすすめの回り方は?
鞭馬 現代美術館に限らず、例えば江戸東京博物館や東京都写真美術館にも図書室ってあるんです。展覧会を見た帰りに、図書室を覗いてみていただくのもいいかなと思います。あとは各館にミュージアムショップやカフェがあるので、オリジナルグッズを集めたり、お店ごとの特別メニューを楽しんだりするのもいいと思います。清澄白河は、下町情緒も残しながら、カフェやギャラリーも増えている素敵な街なので、周りの環境もあわせて楽しんでみてください。
- 東京都現代美術館 美術図書室をご案内!
今まで存在を意識したことのなかった、美術館の中にある「図書室」。
司書の鞭馬さんに、館内を案内していただきました!
さっそく、光と影の演出にワクワク。
この先の1階のミュージアムショップ横の階段を地下に降りると
美術図書室の入り口が現れました…!
さっそく中に入ってみます!
「普通の図書館とは違って、受付をして荷物はすべてロッカーに預けていただきます。貴重品・筆記用具・ノートパソコンはお持ち込みいただけます」
入り口すぐの棚には全国の展覧会のちらしが美術館ごと・都道府県ごとにファイルして保管されていて、図書室に届いた展覧会の案内ハガキも見ることができます。その他、現代美術館(MOT)で開催された展覧会はもちろん、国内外の展覧会図録もあり、過去の展覧会の内容も図録で閲覧することができます。
司書カウンター。その横には貴重な資料を閲覧するための「貴重書閲覧席」も。美術図書室の蔵書検索システムは、インターネットでも公開しているので、自宅から検索することもできます。
こちらは「マイクロフィルム」という、本の内容をフィルムの形にまとめて保存したものを再生して閲覧・印刷するための機械。なんかすごい。
まるでカフェのようなカウンター席からは、「水と石のプロムナード」が望めます。
「この席を好んで利用されるお客様もいらっしゃいます」というのも納得!
さらに奥に進むと、広い空間に、おしゃれすぎるデスクが登場!
映像資料などが閲覧できる「メディアブース」は、椅子も可愛い!
個人用の席には、各デスクに電源が付いています。
ガラスケースの中には特別展示も。取材時は、古い洋雑誌が飾られていました。
閲覧室には、国内外の美術に関する本がズラリ。持ち上げるだけでも重そうな大型本も揃っています。
お隣には、ガラス張りの可愛い「こどもとしょしつ」も併設!
「こどもとしょしつ」には、現代美術に関する子ども向けの本が置かれています。
見たことのないような絵本がズラリ。
丸テーブルにはミニチュアサイズの椅子が並び、見ているだけでほっこりします。
鞭馬さんもお気に入りエドワード・ゴーリーの『むしのほん』(河出書房新刊)。
カラフルで可愛いむしたちが仲良く暮らしていたところに、誰とも親戚でない黒いむしが現れ、さまざまな出来事が起きていくお話。「内容も絵も面白いので、ぜひ読んでみていただきたいなと思います」。
さて。次は裏舞台に、特別にお邪魔します!
司書カウンターの奥を進むと、司書さんたちが働く事務室兼書庫のお部屋。
ここには日本の雑誌の一部が置いてあります。「あ」から五十音順にズラリ。
万力やブックカバーを作る機械。ちょっとした本の傷みであれば、司書さんたちが手作業で補修されているそうです。
さらに地下2階へと進みます。
書庫になるべく汚れや虫を入れないために、入る前には粘着マットを踏んで足をキレイにしてから!
美術図書室の所蔵総数は約27万冊。上の階の閲覧室には約1万6000冊くらい。それ以外のほとんどの本が地下2階の書庫に置いてあるんだそうです。
「集密書架」と呼ばれるこちらの書庫は手動になっていて、ハンドルを回すと、本が現れます。より多くの本が保管できるようになっているんですね。
展覧会カタログだけでも書架が何本も! 本当にすごい数です。他にも洋雑誌、大型和雑誌…種類別に、美術に関するあらゆる資料が並んでいました。
『美術手帖』(美術出版社刊)1948年発行の第1号も。
こちらが、貴重な本の内容が縮小画像の形で保存されている「マイクロフィルム」。
図書室を見せていただいたあと、鞭馬さんに教えていただいたミュージアムショップにも寄ってみました。
ありました! 現代美術館(MOT【モット】=Museum Of Contemporary Art Tokyo)オリジナルのグッズ!
ミュージアムショップを抜けたところにある中庭は、インスタでもよく見かけます。(絶好のフォトスポット!)
階段を降りると、
図書室のカウンターから見えていた「水と石のプロムナード」へと続きます。
美術館の隣には木場公園があり、美術館周りも素敵です。
清澄白河は下町情緒と新しいおしゃれなカフェやギャラリーが共存する街。
ぜひのんびり散策してみてください。