ゲイの青年の恋愛を軸に描いた映画『his』│宮沢氷魚と藤原季節が自身とシンクロする点とは?

恋愛映画の旗手として注目される今泉力哉監督の意欲作『his』。ゲイの青年の恋愛を軸に、彼らの抱える葛藤や周囲の理解を求めて奮闘する姿がリアルに描かれている。主人公・井川迅役として本作で映画初主演に抜擢された宮沢氷魚さんと、迅が恋焦がれる相手・日比野渚を演じる藤原季節さん。おふたりは今作にどんな思いで挑んだのか? 撮影時の心境や役と自身がシンクロする点などをお聞きしました。

その瞬間瞬間を生きるように、
自然なリアクションや感情表現ができた

今作はとても現代的でシリアスなテーマを扱っていますが、冒頭から自然な空気感が流れていて、スッと物語の中に引き込まれていきました。おふたりはゲイ (同性愛者/LGBTQ) の青年を演じていますが、撮影を振り返ってみていかかですか?

宮沢 この役は演技プランを立てて演じるというより、その瞬間瞬間を生きるように、自然なリアクションや感情表現ができた作品になったと思います。

藤原 僕が俳優としてできることは、 (宮沢) 氷魚くんが演じる (井川) 迅の心に触れることだと思って演じていたのですが、演技を超えた瞬間みたいなものがありました。僕は氷魚くんの内面から発光しているようなところがすごく好きなんです。迅が怒るシーンでは氷魚くんの体が震えているのがわかったし、演技を超えたリアルな感情みたいなものが露わになるような、本当にすごい瞬間がありました。

ちなみに、︎クランクインするまではどのようなお気持ちでしたか?

宮沢 実はクランクインするのが怖かったんです。プレッシャーもあったし、自分が100パーセント迅になりきれている自信がなくて…。今でも自分が100パーセント迅でいられたのかわからないですけどね。

藤原 それは本当によくわかります。僕もクランインの前日に自分が (日比野) 渚になりきれているんだろうか…って、とても不安でした。

そういったお話を撮影現場でされましたか?

藤原 直接的な話はしていないかもしれませんが、同じ緊張感のようなものは感じ取りました。

宮沢 僕の気持ちを一番近くでわかってくれている人は (藤原) 季節くんしかいなくて、気持ちの上でも支えられました。

自分の居場所はどこにあるんだろう? と
迅と同じように悩んだ時期があった

演じられた役柄でご自身と似ている点、または逆だと思う点はありますか?

宮沢 迅と自分はけっこう似ていると思っています。僕は悩みごとも自分で解決したい人間で、誰かに相談したくてもできないんです。迅もそういうところがあってすごく共感できました。僕自身はクォーターというのもあって、小さい頃にからかわれたことがあります。日本では外人扱いされたりすることもあったし、生まれた国のアメリカに戻れば「お前はジャパニーズ」みたいに言われて。自分の居場所はどこにあるんだろう? と悩んだ時期がありました。そういうところが迅と共通していると思って、役作りする時に思い出していました。

藤原 渚は一見すると行動がめちゃくちゃだったり、発言が軽かったりするんですけど、その裏側にある臆病なところや弱さは自分と似ていると思います。僕は物事をけっこうこねくり回して考えちゃうんですけど、氷魚くんに会う度に、 “なんてピュアなんだろう” と、彼の裏表がないところに感動して、うらやましさを感じるんです。渚も迅に対して “うらやましい” と思う気持ちがあったんじゃないかなと思います。

そういう迅と渚の “ラブストーリー” というのが作品の軸になっているのですね?

藤原 はい! これは愛のある話です。かわいいシーンもありますし、笑えるシーンもあるのであまり構えず気軽な気持ちで観てほしいです。この映画について真剣に考えてくださるのも有り難いですけど、楽しんで観ていただきたいですね。

身近にLGBTQの人がいるかもしれない
そういう想像力をもって生きてほしい

おふたりから高校生に観てほしいと思う映画があれば教えてください。

藤原 青春映画の『ウォールフラワー』 (’12) 。高校生の時に観れば、 “今しかないんだ、この時間は!” “もっと頑張ろう!” と思えるかも。もうひとつ、『愛のむきだし』 (’08) は今の高校生が観たら流行るかもしれないすごい映画です。僕は19歳頃にこの映画を観て、 “俳優を頑張ってみよう!” と思いました。あれを高校生の時に観たらもっと早く人生が変わっていたかもしれないですね。

宮沢 僕は、サスペンス映画の『ユージュアル・サスペクツ』 (’95) です。ラストが衝撃的で、この映画を観れば、 “人って本当に信用できない…” と思うけれど、逆に “自分を信じるのは自分しかいない!” って思うかもしれないですね。

最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします!

藤原 自分には差別や偏見はないと思いこんでいましたけど、無意識のうちにマイノリティの人 (LGBTQ) は特殊であると思っていたかもしれないです。もし自分が10代の頃にこの映画に出会っていたら、僕の認識はもっと変わっていたと思います。高校生の皆さんもこの映画を観ることで、 “もしかしたら自分のクラスの中にもゲイ (LGBTQ) の人がいるんじゃないか” という想像力を持つことができる思います。そういうことが普通になれば、もっと豊かな社会になっていくんじゃないかな。

宮沢 僕は学生時代に男子校だったので、ゲイの友だちもいました。本人は公表していなくても知っていたし、幼稚園から一緒だったのでそれが当たり前でした。この作品に参加して、あらためて “普通って何なんだろう?” って考える瞬間があったんです。いろんな意見があっていいと思うし、 “みんな違っていていいじゃん” と思ってもらえたらいいなと思います。疑問に思うことがあれば、誰かに聞いてほしいし、何でだろう? と自分で考えてほしいです。この映画がそういうきっかけになればいいなと思います。

his
  • 監督:今泉力哉
  • 企画・脚本:アサダアツシ
  • 音楽:渡邊崇
  • 出演:宮沢氷魚、藤原季節、松本若菜、
    松本穂香、他
  • 配給:ファントムフィルム

©2020映画「his」製作委員会

全国公開中

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